第11話 虫の知らせ
高校の秋。
最初の頃、私は律義に校則通り持ち込んだスマホは朝から学校が終わる夕方まで電源を切っていた。
その日の夕方、電源を入れるとたくさんの通知が入っていた。
慌ただしく連絡を求めるメッセージ。
それとは打って変わって15時ごろのメッセージでは「タクシー使っていいからゆっくり帰ってきてね」だった。
その時言いようのない不安感に襲われた。
何故だか今まで一度も経験したことのない何かがあったと確信した。
胸の奥がかゆくなるような胸騒ぎにいてもたってもいられず、タクシーも待たず走って帰った。
帰ってきた途端に感じる違和感。
妙な空気。
たぶんそこで、兄が事故で亡くなったと聞かされた気がするがまっしろではっきりと記憶していない。
言語は理解していなかったが、あまりに異常な両親の取り乱しようを見ると頷けた。
それからは両親ら大人が式の準備を行う中、私もお客さんの対応の準備のためどこになにがあるかなどを聞かれた。
でも、お客さんが来る以上泣いてはいけないと思っていた。
きっと笑えずとも、ほんの一ミリ口角をひきつり上げる程度なら上手だったのではないかと思う。
不謹慎だろうか。
いや、構っていられない。
一度でもこの決壊が切れたなら両親と同じように、際限なく涙に溺れるだろう。
両親も悲しみに暮れるなか、この家のことを伝えられるのは私しかいない。
だから、私まで落ちるわけにはいかない。
こんなときですら、やるべき役割に忠実だった。
心配をかけてはいけない。
でも、式の最中でやはり決壊してしまった。
その夜、冷たくなった兄と母と、私で寝た。
火葬するまでのわずかな時間。
横にいるのは冷たい人なのに、やはり怖いという気持ちは微塵もなかった。
はじめて骨を拾った。
あんなにたくましい身体さえ、こんな断片になってしまうというのだからあまりに人は脆い。
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