第10話 あかい夜

今でも根強く印象に残っていることがある。


いつだったか、散財をやめてくれない父に母が金庫のカギを隠したことがあった。


その晩遅くに、案の定父は寝ている母を起こしてカギの在りかを迫った。


父はひそひそ声だったが、元々眠りの浅かった私は人の気配ですぐに目を覚ました。


どうせ母に知らぬ存ぜぬを突き通されて、父が不機嫌に終わるだけ。


そう思っていた。


ただその日はなぜかいつもと違った。


暗くてよく見えなかったが馬乗りになって軽く顔をたたいているようにみえた。


「渡すまで寝かさないからな」と強い怒号で脅迫したたき起こし続ける父と


泣き出す母


もうヒソヒソでもなかったので、私も起きていることにも気づいていたであろう。


あまりにも見てられずおずおずと制止をかけたが、怒りのボルテージがあがると手を付けられないことは知っていたので強くは言えなかった。


案の定、怒号で切り返され、逃げるようにただ毛布にくるまってこの事態が収まるのを待ってひたすらに静かに泣いた。



泣きつかれたのか、そのまま寝ていたようだが、その日の目覚めは最悪だった。


その日の夢は、クローゼットの中に赤い袋が入っている夢。


それがなんであるかは、夢であれど口にもしたくない。


所詮起きれば忘れてしまうような夢の残像を、いまでも覚えている。




いつか起こりうるんじゃないか。


そこまで連想させるほどの長い一夜だった。

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