第44話、ごつめの男1

 誰でもいいから俺を助けてくれ……


 俺がそう願った瞬間、町の外で何か大きな音がした。まるで何か大きな岩のような物が地面に落ちた、着地音とでも言えばいいのだろうか。そういった類の音だ。


 当然だが、町のあちこちが騒がしくなり、近くにいた冒険者らしき奴らが、様子を確認しに町の外へと向かったのが見えた。


 二人も流石にこのような騒ぎの中、先程のような争いを繰り広げる事はないらしく、少し緊張した面持ちで音のした方角を見ていた。


「……俺達も行ってみるか?」


 俺がルビサファ姉妹と真珠しずくにそう声を掛けると、全員が一斉に無言で頷いた。何にが起こったのかは分からないが、いい事でないのは確かだろう。


 そして俺達が町の外へと歩みを進めていると、先程駆け足で町の外に出ていった冒険者らしき奴らの内の一人が血相を変えて町の中に戻ってくるのが見えた。


「あ、アンデットだ! アンデット種が町の外に!!」


「「アンデットが!?」」


 アンデット種……何となく予想はしていた。確認してみないと詳細は分からないが、多分あのごつめの男がやってきたのだろう。


「仲間が、仲間が全員殺られちまった! シルバーの連中でもまるで歯が立たねぇ!」


「……ねぇあんた! そいつはどんな見た目をしてるの!?」


「ミイラだよ! 包帯をぐるぐるに巻いた筋肉質なミイラ! 遠目だから詳しくは分からなかったが、半端じゃないバルクだった!」


「筋肉質なアンデット……見てみないと分からないけど、あの男の人で間違いないんじゃないかな。僕達が戦ったアンデットはそこまで大きくなかったから。もしかしたら別の相手かもしれないけど、わざわざこんな町まで来る理由もないしね。」


 真珠しずくの予想でもあのごつめの男のようだ。まぁこんなタイミングで現れるような奴なんて、あのごつめの男以外に考えられないが。


正義まさよし、とにかく行ってみようよ。もしあの男の人なんだとしたら、多分狙いは僕だろうしね。」


「……真珠しずく。その、大丈夫か。あいつはアンデット化した事でかなり強化されているはずだろ。行ってみるかなんて言っておいて何だが、俺達で勝てると思うか?」


 俺は真珠しずくに、つい弱音を吐いてしまった。起きたての頃は謎のテンションで冷静な判断ができなかったが、先程の二人の争いを経ていつもの俺に戻った気がする。つまりこわい。こわいんだ。


 俺の予定では、今日はこれからゴブリン等と戦って、俺がどれくらい強くなったのか軽く確かめる予定だった。それがどうだ。いきなりゴブリンなんて目じゃない程の強敵と対峙する事になりかけている。


 何度も言うが、俺が強くなったのは多分本当だ。真珠しずくとヤッた事によって何か不思議な力が働き、俺の力がパワーアップしたんだと思う。だが強くなったとは言っても、どれだけ甘く見積もってもせいぜいが数倍程度なはずだ。数十倍、数百倍も強くなったりはしていない。


 だがこれから戦う相手は、元々ゴールド冒険者以上の実力があったと思われる男が、アンデット化してさらにパワーアップしたって状態の相手だ。とてもじゃないが無理だろう。


 はー、やだやだ。何で俺ばっかりこんな目に遭うんだ? まだ城を出て二週間程度だぞ? それが何だ。町に着いて早々に命の危険がある姉妹を治療し、その数日後には滞在していた町が襲われ助けた姉妹と命からがら逃げ、途中大量のゾンビに襲われるも何とか窮地を脱し、そして着いた先の町で大怪我を負った知り合い等と再会して色々ありつつも合体し、そしてまた強敵と戦う事になっている。


 何だ、これは一体何なんだ? 一体全体、どういう運命を背負っていたらこんな濃い人生が送れるんだ? しかも俺は巻き込まれただけの、元はただの一般人なんだぞ? それが何故……


正義まさよし。」


 俺が自分の境遇に関して考え込んでいると、真珠しずくが俺の名前を優しく呼んでくれた。


「大丈夫だよ。僕が正義まさよしの事を護ってあげるから。だから正義まさよしは何も心配しないで、ただ僕の戦いを見ていてくれるだけでいいから。」


 真珠しずく……お前、なんて、なんていい女なんだ。俺は感動したぞ。本当は俺があいつを倒そうと思っていたんだが、真珠しずくがそうまで言うのなら、仕方ない。今回の所は真珠しずくに全て任せよう。うん、それがいい。

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