第42話、もう何もこわくない

 そう……俺は昨日、童貞を捨てた。


 なんて清々しい朝なんだろうか。この世に生を受けてから十数年、ここまで気持ちのいい朝を迎えた事はない。童貞を捨てた朝が、こんなにも素晴らしい物だとは思わなかった。


 俺は真珠しずくを起こさないようにベッドから抜け出し、軽くストレッチをする。身体がとても軽い。ルビーのOPPAIを揉んだ次の日以降も身体の調子がよかったが、これはそんな比ではない。まるで今までの俺は、何か重りのような物を全身につけた状態で生活していたのかもしれない、そう思えるくらいに。


「……ん~……おはよう……正義まさよし……」


 なるべく起こさないように気を付けたのだが、どうやら真珠しずくを起こしてしまったようだ。悪い事をしてしまったかな。


「悪い、起こしてしまったか?」


「……ん~……気にしなくても、いいよ……」


 どうやら真珠しずくは朝に弱いようだな。新しい発見だ。こういう真珠しずくも悪くないな……いやむしろいい。他人に弱みなんか見せないような人間が、ふとした時に自分だけに見せる弱みのようなもの……とてもいい。昨日アレだけ暴れまわって疲れ切っているはずの俺の息子が、また臨戦態勢に入ってしまった。


「……また、やる///?」


 真珠しずくが俺の臨戦態勢に入った息子を見て、小首を傾げながらこのような事を言ってきた。だが今は駄目だ、耐えるんだ。今また真珠しずくをギシアンしよう物なら、そのループから永遠に脱げ出せなくなってしまいそうだ。


「……いや、今日は少し試してみたい事がある。だからアレはまた今晩……な?」


 俺は真珠しずくの耳元でこう囁いた。


「もう……正義まさよしのえっち///」


 ……ちょっと待ってくれ。何か昨日までは言うのをためらった、というよりもまず言わなかったようなセリフが勝手に口から出てしまう。


 多分さっきまではまだ若干頭回ってなかったのかもしれない。それが今になって急に周りだした。待って待って、え? 何か俺恥ずかしくないか? 童貞捨てただけでこんななるのか?


「……すまん真珠しずく、今のは忘れてくれ……」


「だめだよ。約束したからね? 破ったら……やだよ?」


 くっ、なんて可愛いんだ……! 俺はどうしてこんな可愛い女の子を、昨日まで同性等と思っていたんだ!? もうOPPAIが小さいなんて些事だ、些事。もう全てがどうでもよくなる可愛さがここにはある。


 ……親父、お袋、天国の婆さん爺さん、隣の席だった鈴木、見てるかい? これが俺の彼女、真珠しずくだ。……ヘヘッ、俺みたいなのでも、こんなに可愛い彼女ができたんだ。俺なんかには勿体ないよな。


 俺はもうそっちの世界に戻ることはできないかもしれない。けど俺は元気だし、これからも元気に生きる。これから先、何があっても俺はこの真珠しずくと歩んでいくよ……


 ……なーんか、もうどうでもよくなってきたな。キザったらしいセリフ? それがどうした? 俺はもうそんな些細な事を気にし、気に……気にしたりはしない! ……少なくとも真珠しずくの前では! 


 童貞を捨てた俺に! こわいもの等……ほとんどない! このままの勢いで最後まで乗り切ってやる!! まずは俺の真珠しずくに手を出そうとし、挙げ句裏切りやがったあのクソ野郎を、ぶっ殺す!!

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