第39話、何にせよ

「……ねぇ、もしかしてあんたなら何とかできるんじゃない?」


 必死の抵抗虚しく、ルビーが俺の耳元で囁いた。俺なら何とかできるんじゃないかと。


「……いやあの時とは状況が違いすぎる。相手はプラチナ冒険者って話だぞ。どれくらい強いのか知らんが、俺でどうにかできるレベルだとは思えん。」


「でも相手はアンデットって話じゃない。あんたなら一発当てさえすれば、仕留められるかもしれないじゃない。少なくとも、私達よりは可能性が高いと思うわ。」


「いや、そうは言ってもだな……」


 俺がルビーの囁きに対し、囁きを持って返していると、それを訝しんだのか、真珠しずくが俺達に対してこう言ってきた。


「……二人で何をこそこそ話してるんだい?」


「……いえ、別に。ただこれからどうするかって話をね。」


「そうだ。別にやましい話なんかじゃあないぞ。」


「へぇ……やましい話じゃないんなら、是非僕にも聞かせてくれないかな? 僕はこうして包み隠さず話したってのに、それは少し不公平じゃないかな? お・ふ・た・り・さん?」


 何か知らんが、真珠しずくを怒らせてしまったようだ。確かに内緒話みたいなのを目の前でされると、あまり気分がいいものではない。だがそこまで怒る程の事だろうか。


「落ち着け、真珠しずく。俺達は本当に、やましい話なんてしていない。ただ事情があってここでは詳しく話せないんだ。」


正義まさよしがそう言うなら信じるよ。」


「え、あ、あぁ。ありがとう。」


 なんか知らないが、やけに素直に引いてくれたな。まぁよく分からんが面倒な事にならんでよかったと喜んでおこう。


 ただこれからどうするか。ごつめの男の事をよくは知らないが、城での行動から考えるに、奴が真珠しずくに惚れているというのは本当だろう。そして何をするか分からんという事も。流石に今日明日はないだろうが、そう遠くない未来、この町に攻め込んできても不思議ではない。


 真珠しずくの話が本当だとして、ごとめの男がアンデットに変化しているとしよう。確かに俺の精液が上手く頭に当たりさえすれば、勝てるかもしれない。だがその当てるという事が難しい。


 胴体のどこかに当てるという事なら、決死の覚悟で挑めば可能かもしれない。だが頭は無理だ。あの時のように大量の精液を出すことができれば可能かもしれないが、同じ事ができるとも限らない。その上この前のゾンビとは違い、動きも圧倒的に素早いはずだ。そんな相手の頭を狙って射精する、まるでできる気がしない。


 だが奴が真珠しずくに執着しているという事を逆手に取ってみてはどうだろうか。何かいい感じに真珠しずくに奴を誘い出してもらい、背後から俺が近づき奴の頭目掛けて射精! みたいな。できる事なら、男の頭目掛けて射精なんかしたくないのだが。


 まぁ何にせよ、ごつめの男を相手にするなら真珠しずくの協力が必要不可欠となるはずだ。となれば、さっさと真珠しずくの怪我を治療するのがいいだろう。


 男に精液をかけるのはできればやりたくないが、真珠しずくならギリOK……と言えなくもない。顔は中性的というか、女性と間違えてもおかしくない見た目をしているからな。仮に真珠しずく胸があったとしたら、俺も女性だと間違えていたと思う。


真珠しずく……お前に大事な話がある。ただここでは話せない。人目に付くからな。だから今から、俺が泊まっている宿に一緒に来てくれないか?」


「いいよ。」


「今動くのは辛いと思うが、頼む。俺の泊まっている所はここから十数分くらいの距離なんだが、俺も手は貸す……え? いいのか?」


 あれ? 何か思い外すんなり頼みを聞いてくれたな。もっと説明を求めてくるかと思っていたのだが。


「うん。いいよ。正義まさよしが泊まってる宿に行くんだよね?」


「あ、あぁ。」


「じゃ、さっそく行こっか。」

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