俺の息子から出る白い液体にはあらゆる怪我や病を癒やす、とんでも効果があるらしい

第38話、もしかしてあんたなら

　俺は基本的に、旨い飯とそれなりの睡眠、そして最高の性欲発散ができればそれでいいのだ。

「といわけで、僕達の話はこれで終わりだよ。何か質問とかあるかい？」

「一ついいかしら。」

「……どうぞ。」

「あなた達が戦った敵は、アンデット種で間違いないのよね？」

「そうだと思うよ。人の言葉を話してはいたけど。見た目だと分からないけど、多分ゾンビじゃないかな？」

「……そいつとはこの町の近くで遭遇したのよね？　その、そいつがこの町を襲ったりとかはしないかしら。」

「うーん、どうだろうね。でもあいつは多分襲ってこないと思うよ。あいつが僕達を襲ってきたのは、単純に成長して強くなる前に潰しとけって感じだったからね。少なくともその要件は果たせたわけだし、わざわざこんな町を襲ったりはしないんじゃないかな。」

「そう。それならいいけど。」

「あー、でも。」

「でも？」

「僕達の仲間から相手に寝返った彼、あの人はもしかしたらこっちに来るかも。僕達がこの町に逃げてきたって事くらいは知ってるだろうし。」

「……どうしてそう言えるのかしら？」

「さっき物資補給をするために、一度この町に訪れたって言ったよね。実はその時、その彼に告白されたんだよね。俺と付き合ってくれ―とか何とか。でも僕好きな人がいるからって断ったんだよね。そしたら彼すごい怒ってさ。もう大変だったの何のって。」

　あのごつめの男、やはり〇〇だったのか。城での行動的に、いつか告白するだろうと思ってはいたが、こんなに早く男である真珠（しずく）に告白するとはな。

「だから僕、彼に恨まれてると思うんだ。あの時なんて叫んでたかは知らないけど、多分僕に対する恨み言とかだったんじゃないかな。人間がアンデットになる場合、より強い恨みや怒りを持っている方が、強いアンデットになれるって話だし。」

「……それは確かに危険ね……」

「うん。だからできればこの町に強い人でも居ればいいんだけど、そんな都合よくいるわけないよね。」

「その男がどれくらい強かった、とか分かる？」

「……僕達も実際に戦ったわけじゃないから、真偽の程は分からないよ？　ただ僕達を召喚した城の兵士達が言うには、おそらく彼はゴールドの冒険者以上の力があるだろうって話だったかな。それが本当ならアンデット化した事でもっと強くなってるだろうから、プラチナの冒険者と同等程度には強いんじゃないかな。」

　あのごつめの男、そんなに強かったのか。俺も冒険者の強さなんて大して知らないが、少なくともルビサファ姉妹は普通に強いと思う。

　そのルビサファ姉妹より二区分上の、ゴールド冒険者以上の実力があったと仮定するなら、多分滅茶苦茶強いのだろう。少なくとも俺なんかが相手になるレベルじゃあないのは確かだ。

「プラチナ……それが本当なら、さっさとこの町から離れた方がいいわね。とてもじゃないけど私達じゃどうにもできないわ。」

「でも姉さん。ここから次の町までは、馬車で行ったとしても一週間程かかる距離があったはずです。その方がいつ襲ってくるか、そもそも襲ってくるか分かりませんが、もしもすぐ襲ってくるのだとしたら、今から準備して逃げても間に合わないのではないですか……？」

「……確かに逃げ切れるかは怪しいわ。でもプラチナ以上の実力者を相手に、私達や町の冒険者だけで立ち向かうのは無謀、というよりも無理よ。為すすべもなく殺られてしまうわよ。」

　何で俺はこんなにもこう、不幸に見舞われるんだろうか。雌のオークと言い、ソンビの集団といい。ルビサファ姉妹と出会ってから、碌な目にあっていない気がする。まぁ向こうも同じ事を考えているかもしれないが。

「でも戦うにしても逃げるにしても、早めに決めないと取り返しのつかない事になるかもしれないわ。……プラチナ以上の実力者、アンデット……アンデット……？」

　ルビーが何かに気が付いたのか、俺の方をチラリと見てきた。いやいやいや、待ってくれ。俺も最初に話を聞いた時、思ったさ。「あれ、これ俺なら何とかできるんじゃないか？」とな。

　確かにさっきの話が本当なら、それも可能かもしれない。上手く俺の攻撃を当てる事ができたのなら、倒せる可能性もある、かもしれない。

　だが相手はプラチナ以上の実力者、対してこっちはつい最近アイアンに上がったばかりの冒険者。比べるまでもない、勝てるわけがないだろう。こっちが出す前に相手にやられるのがオチだ。

　だから、な？　お前が今考えている事は胸にしまって、それから別の方法を考えよう。俺も協力するから。何かいいアイデアないか必死に考えるから。だから頼む。その考えは忘れてくれ。

　止めろ！　俺に近づいて、いつものように耳元で囁やこうとするんじゃあない！　おい、止めろ！　それ以上近づいてはいけない！　その先の言葉を言ってはいけない！！

　だが俺の無言の抵抗も虚しく、ルビーが俺の耳元でこう囁いた。

「……ねぇ、もしかしてあんたなら何とかできるんじゃない？」