第37話、何が起きたのか2

「まずあの二人だけど……死んだよ。二人共ね。」


 まぁ何となくそうだろうなと思っていたが……そうか、死んだのか。


「ただ……あの男の人は、蘇生されて今敵側についてる、と思う。」


「……どういう事だ?」


「結構ややこしい事になっててさ。まず、あの女の子は死んだよ。最初に殺された。そしてその次に、あの男の人が殺されたんだけど、その後敵に蘇生されて蘇ったんだよね。」


「……」


「正直僕もどういう状況なのか、イマイチ理解できてなくてさ。ん~……まず順を追って話すね。」


 ◆◇◆


「って感じかな。」


「……」


 なるほどな……全くもって意味が分からない。


 真珠しずくの話はこうだ。まず、真珠しずく達一行は魔王的存在を倒すため、旅をしてこの町に辿り着き、物資補給等をしてすぐに町を出た。そしてこの町から少し進んだ場所で、魔王的存在の側近を名乗る奴が現れたらしい。真珠しずくの話ではアンデット種との事だ。


 そして真珠しずく達はその魔王的存在の側近、面倒だから魔王の側近としよう。そいつと戦う事になってしまった。真珠しずく達は一応勇者とかそんな感じの立ち位置なので、今の段階でも十分強い。だが魔王の側近には全く歯が立たなかったとの事だ。


 その魔王の側近との戦いで、まず大人しめの女が殺られた。何でも回復魔法を使える人間は今の魔王一向にとってはかなり厄介な存在らしく、そんな理由でまず大人しめの女が殺られたらしい。それも瞬殺で。


 そして次にビッチが喉を潰された。魔法使いは喉さえ潰せば後は役立たず同然なので、それくらいで済んだようだ。そして次は真珠しずくの腕、そして最後にごつめの男が殺されたらしい。


 だがごつめの男は死ぬ直前に何か敵に向かって叫んでいたらしく、それが理由かは分からないが死亡後に即蘇生され、そのまま敵側についたとか何とか。何を叫んでいたかは分からないが、敵に寝返った事からもあまりいい内容の話ではないのだろう。


 魔王の側近は元々人間だったらしく、情けからか真珠しずくとビッチはそのまま解放され、何とかこの町まで逃げ帰ってきたようだ。そして今に至ると。


「……ふぅ。とまぁそんな訳さ。」


「……」


「僕達はあいつに手も足も出なかった。そして身体はこんな有様……」


「……そうか……」


 俺は真珠しずくになんて声をかければいいんだろうか。真珠しずく達程強くても、その魔王の側近とやらには対抗できなかった。しかもその結果、一人は死に、一人は的に寝返った。


 正直怪我自体は治せる可能性があるのだが、真珠しずく達に怪我は治してやるから修行し直してもう一回戦ってこい、とは流石に言えない。


 というよりもそもそも何で魔王を倒す必要があるんだ? 何か見た所この町も平和そうだし、魔王のせいで世界がヤバいなんて感じは正直しない。前の町は、まぁ気の毒ではあったが、あれは魔王の命令でというわけでもないだろう。エメラルドを見るに、あれは完全に自分の欲望を満たすための行動だと思われる。


 それにルビサファ姉妹やその他の冒険者も特に、打倒魔王! みたいな事を掲げているような感じもしない。まぁ前の町も今の町もそこまで大きくはないようなので、もしかしたらもっと大きな町ではそんな感じなのかもしれないが。


 だから別に魔王を倒さなくたっていいんじゃないだろうか。魔王を倒さなかったら俺達はずっとこの世界にいないといけないわけだが、俺に関してはむしろその方がいいんじゃないかとすら思っている。


 このまま冒険者の区分をブロンズまで上げ、その後当初の予定通り回復薬を売る商売でも始めれば、金に困ることはなくなるはずだ。まぁ上手く行けばの話だが。


 それに商売が上手く行かなかったとしても、最悪このまま冒険者としてやっていけば、一番上等は無理でもブロンズの上くらいまでは行けるかもしれない。そうしたらそれなりの生活を送る事も可能だろう。


 仮に魔王が本格的に世界を滅ぼそうと動き出したとしても、真珠しずく達がどうにもできなかった連中に俺が立ち向かえるわけもなし。その時は大人しく死を受け入れるしかない。だがもかしたら冒険者の上の連中や、その他の何か強い人達が何とかしてくれるかもしれない。


 つまり、このままここで暮らしていけば、それで十分な人生が遅れるような気がする。少なくとも今の所は。


 それにここでなら、楽に童貞卒業だってできるかもしれないしな。常に命の危険に晒されている方が、何か子孫を残す的な意味で楽に合体できそうなイメージがある。俺は基本的に、旨い飯とそれなりの睡眠、そして最高の性欲発散ができればそれでいいのだ。

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