第2話、実験

 だが幾つか疑問点もある。それを解消しないことには安心はできない。


 まず一つ目の疑問点、俺以外の人間や他の生物に効果があるのか。もしも俺以外に効果がないのなら、正直厳しいと思う。自分の怪我しか治せないのなら、他人の力を当てにすることができない。俺自身に戦闘能力はないからそれだとかなり不味い。


 二つ目の疑問点、どのくらいの怪我なら治せるのか。擦り傷・切り傷・打撲程度なら一瞬で治せる疑惑のある俺の精液。これがもしもそれ以上の怪我、言ってしまえば欠損等も治せるのならそれはとてもすごい力だ。後は病気とかその辺にも効果があるのかどうかも調べないといけない。


 三つ目の疑問点、怪我を治すのは直接かけないといけないのか経口摂取でもいいのか。もしも直接かけないといけないのだとしたら、仮に俺以外の人間や生物に効果があるとしても受け入れられはしないと思う。誰が好き好んで精液をかけられたがるだろうか。俺だったら嫌だ。


 もしも経口摂取、つまり飲んでもOKということなら話が変わってくる。何らかしらの飲み物にでも含ませても効果があるのなら、回復効果のある飲み物として売り出せれば一攫千金を狙えるかもしれない。


 そして四つ目の疑問点、怪我を治す際に必要な精液の量がどれくらいなのか。これがもしも直接出した精液を全部使って、ようやく擦り傷等が治る程度だとしたら正直微妙な効果だと思う。


 この世界にはポーションみたいな回復薬も存在するらしく、多少値は張るが擦り傷程度なら治せるらしい。なのでもしもこの回復薬と同程度の効果で、なおかつ精液がたくさん必要なのだとしたら俺の息子がヤバいことになってしまう。


 とりあえずこの辺を色々試さないといけないな。だがどうやって試そうか。俺は今城に居候している身だから、下手に出歩こう物なら何をされるか分からない。となると正直試す方法がない。困ったな。


 その後も色々と頭を捻ったがいい方法は思い付かなかった。一番確実なのは友人に頼むことなんだが、あいつは回復魔法とかである程度の怪我は治せるから実験には向いていない。となるとやはり城の兵士で試すしかないか。


 そう思った俺は、とりあえず精液を集めるために射精した。流石にもう何回か抜いた後だったので量や濃さは減ったが、これで試してみるしかない。手近な飲み物に混ぜ、残りは左手に隠して……精液を手に付けたままなのは気持ち悪いし臭いもキツいのでさっさと済ましてしまおう。


 俺は部屋を出て、訓練所に足を運んだ。とりあえず試すとしたら一番下っ端っぽいあの人だろう。あの人は立場が低いからか元々そういう性格なのかは知らないが、俺みたいな一般人にも普通に接してくれたからな。多分いい人だ。名前は忘れたけど。


 目的の人物を探して歩き回っていると、訓練所の隅っこの方にその人はいた。この城は訓練所が三つ程存在する。


 一番広くて設備も整っている第一訓練所は、友人やその他召喚された人が訓練をする場所。二番目に広くて設備もそこそこの第二訓練所はちょっと偉そうな人や強そうな人が訓練をする場所。一番狭くて設備もイマイチな第三訓練所は、新人の兵士等が訓練する場所。俺が探している人は第三訓練所にいた。


「あのー、すみませーん。」


「自分でありますか?」


「あっはい。訓練お疲れ様です。あの、よかったらこれどうぞ。」


「これはこれはご親切にどうも、ありがとうございます! いただきます!」


 俺は自分の精液を溶かした水を渡した。相手は喉が乾いていたのか、俺が渡した水をゴクゴクと音を立てて一気に飲み干した。パッと見た感じ、全身に擦り傷等があったように見える。さぁどうなる?


「プハーッ! 生き返ったであります!」


「喜んでもらえたようで何よりです。それで……何か身体に変化なんかあったりしましたか?」


「? 変化でありますか? 特に何も……いや、これは!?」


「どうかされましたか?」


「身体の傷が治っている治っているであります! 先程まで痛みのあった傷が全て! それになんだか身体が軽いであります!」


「本当ですか!?」


 実験成功か!? どうやら経口摂取でもある程度の効果は望めるらしい。しかも少量の精液でいいようだ。もうちょっと実験してみないといけないけど、とりあえず希望がみえてきたぞ。


「はい! もしかしてこれは、あなたが何かされたのでありますか!?」


「……えぇ、まぁ。その、詳しくは言えないんですけど。」


「でも確かあなたは勇者様達に巻き込まれた形で召喚された、一般の方ではありませんでしたか?」


「おれ、いや僕もそう思っていたんですけど、何か実はちょっとした力があったみたいでして。」


「それは本当でありますか!?」


「あーでも、この事を王様とか兵士長様とかには言わないで欲しいんですよね。できればここだけの秘密で。」


「それはまた何故? 王様や兵士長にこの事を報告すれば、あなたの待遇ももっとよくなるのではありませんか?」


「それはそうなんですけど、できれば僕もこのまま城を出て世界を見て回りたなーって思ってまして。この能力を上手く使えれば金銭的にも困らないでしょうし。王様や兵士長様に言ったりしたら、もしかしたら自由がなくなるかもしれないじゃないですか。なのでできれば……」


「……なるほど、そういうことでしたら了解であります! 私は何も見てませんし、何も聞いていません!」


「すみません。ありがとうございます。」


「いえ、頑張ってくださいであります!」


 物分りのいい人で助かった。やっぱりあの人はいい人だ。俺は最初から分かっていたよ。


 まだまだデータは必要だけど、とりあえず俺以外の人にも効果があり、擦り傷や切り傷程度なら治せて、経口摂取でもOKで、量も少量でいいと分かった。たまたまあの人だけに効果が強く出たとか、実は男性にしか効かないなんてことがあるかもしれないからもっと調べないといけないけど。


 でもこれはもしかしたらもしかするかもしれないな。ついに俺の時代が到来したかもしれない。よし、俄然やる気がわいてきたぞ。

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