第1話、異世界召喚

 精液。それは男性にのみ備わった、伸び縮みする特殊な肉棒から放たれる白濁した液体。主に気持ちよくなったら出る。


 普通、この精液には人を癒やす力はない。そう、普通なら。


 しかし俺の精液はどうやら普通じゃないらしい。何かすごい癒やしの効果があるようだ。実験してみないと分からないが、もしかしたら四肢の欠損すらも治せるかもしれない。


 俺の精液の説明をする前に、今の俺の状況を説明する必要がある。少し長くなるぞ。


 まず俺は数週間前まで普通の高校生だった。普通に学校に通い、普通に友人と遊び、普通に射精する。そんなどこにでもいる、至って健全な男子高校生だった。


 ちなみに彼女も彼氏もいなかったので、射精するのはいつも自家発電だった。


 しかしそんな普通の生活も、数週間前終わりを告げた。異世界に召喚されてしまったのだ。しかも最悪の召喚パターン、巻き込み召喚だ。


 元々召喚される予定だったは俺の友人+αで、俺は一緒にその場にいたから手違いで巻き込まれてしまった。


 召喚された世界は、まぁ普通に異世界だ。何でも魔王的な存在がいて、世界がヤバいから友人達に戦ってもらおうとして呼んだ。そんな普通の異世界。


 当然だが友人とその他の人は狙って召喚されたので、定番の超強力なユニークスキル等を持っていた。滅茶苦茶強い魔法とか技とか、まぁそんな感じだ。


 だが俺は巻き込まれただけの一般人。何もない。俺には特別な力も何も備わっていない。


 幸いなことに友人がとりなしてくれたので、何とか命を奪われるなんて最悪の状況は避けることができた。


 とはいっても友人に巻き込まれただけなので、それで殺されたりしようものならたまったものじゃないが。


 友人のおかげで何とか命だけは助かった。だが肝心の友人は魔王討伐の準備で忙しい。今は戦い方を覚えるとか何とかで特訓に励んでいる。


 もうあと数日もすれば準備が完了するらしい。友人達は城を旅立ち、魔王的な存在を倒すためにファンタジーな世界を冒険するのだろう。


 だが俺はどうすればいいのか。俺は一般人。何の力もないただ巻き込まれただけの一般人だ。今は友人のおかげで城に住まわせてもらっているが、友人がいなくなってしまったら俺もこの城を追い出されることだろう。


 友人が俺を殺したら協力しないと申し出てくれたので、多分殺されることはない。だがそのまま城に住まわせてもらえるかと言えばそんなこともないだろう。


 俺に戦う力はない。城を追い出されようものなら、その辺の一番弱いモンスターに無残に殺され人生の幕を閉じる、何てことにもなりかねない。


 これは不味い。非常に不味い状況だ。だが焦っても何も浮かばない。俺はあくまでも一般人。こういう状況になって改めて痛感させられたよ。


 そして焦った俺は、心を落ち着けるためにいつものルーティーンを行うことにした。そう、射精だ。男性諸君なら分かってもらえると思うが、男性は射精すると冷静になれるのだ。俗に言う賢者モードという奴だ。


 だが射精して冷静になろうともいい考えは浮かばない。2度、3度と射精しても浮かばない。浮かばないんだ。


 これはいよいよ駄目かもしれないと俺は思った。だが自分の精液を見ていたら不思議なことに気付いた。数日前に負った傷が治っていることに。


 実は俺も一度訓練に参加してみたことがある。自分の身くらい自分で守れないといけないからな。だが結果は散々で、無駄に怪我を負っただけだった。


 怪我は結構全体的に負ったんだが、特に左右の手や腕の怪我が酷かった。擦り傷・切り傷・打撲。こっちの世界ではこれくらい普通らしいが、あっちの世界じゃこんな怪我負ったら即病院に行くだろうって程の怪我だった。


 だが不思議なことにその怪我が治っていた。特に怪我が治るようなことをした記憶はないのに、だ。


 もしかしたら俺には怪我を回復する不思議な力があるのかもしれない。もしそんな力があるのならこの世界でも生き抜くことができるかもしれない。俺は必死に考えたよ。


 そしてない知恵を振り絞って考えた結果、一つの結論に至った。もしかして、”精液”が原因なんじゃないかって。


 俺の両手は先程射精した精液の一部が付着していた。もしかしてこれか? ってな。


 そしてそう考えた俺は、自分の精液を軽く拭って他の怪我をしていた箇所に塗ってみることにした。するとどうだ。みるみる内に怪我が治っていくじゃないか。


 そして全ての怪我に精液を塗り終えた俺は、異世界に召喚される前の綺麗な身体に戻ることができた。


 俺の精液は人を癒やす力があるのかもしれない。そう分かっただけでも希望がみえてきた。だが幾つか疑問点もある。それを解消しないことには安心はできない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る