#2 化物
馬車に揺られる事まる三日、特に何のトラブルも起こる事無く、無事目的の『ラグリィ村』に到着した。
早速村の宿をとり、早朝発見されたダンジョンへ向かうべく、森の中へと足を運んだ。
「森の中はホント嫌になるわっ! ジメジメしてて、虫だらけで気持ち悪い。これだから止めようって言ったのに……」
そう言ってとても不機嫌そうに顔を顰めるイーズさん。
ネガティヴな空気のイーズさんに、ルシルさんが耐えかねたかのように青筋を立てて叫ぶ。
「アァ? テメェが金が無ぇつったから高い依頼取ったんだろうがッ!! この淫乱ホスト狂いが!」
荒い口調でイーズさんを罵倒するルシルさん。イーズさんは更に不機嫌そうな顔をしながらヒステリックに叫ぶ。
「は?! アンタもお金が無いからこの依頼が良いって言ったじゃない! それに知ってるわよ、娼館に入り浸ってるそうじゃないの。淫乱はどっちよ風俗男っ!!」
「んだとゴラァ!」
「黙れ、森では静かにしろ。魔物が寄ってくるだろうが」
前々から思っていた事ではあるがこのパーティ、絶望的に仲悪く無いか? かと言って連携戦闘が下手な訳では無い。
どういう経緯で集まったのだろうか、非常に気になる。
「け、喧嘩は良く無いッスよ〜……」
「軽々しく喋りかけないで、無能」
「黙ってろ雑魚!」
ヘイトが完全にこちらへ向いた。喧嘩が治まるならばそれで良いのだが……。
そんな事をしていると、一歩前を歩いていたガリーラさんが歩みを止める。
目の前の崖の側面には、苔むした石煉瓦で出来た入り口が掘られている。
横幅は広く、小さな馬車なら二台は通れそうだ。
「ついたぞ、此処だろう」
「うへぇ、何だか
「最近まで見つかって無かったみたいだからな。」
俺達はダンジョンの中へと入って行く。
入ってすぐ、湿気の多いひんやりとした空気が肌をなぞる。歩く度、コツコツという音が石造りの壁とぼんやりとした暗闇に良く響く。
ダンジョン内は灯りなど無い筈なのに対し、そこらから薄らと光が漏れ出ている。罠ではない事は確かだが、
ダンジョンの構造や正体についてはまだまだ謎が深く、中には大きな砂漠や海、森林が広がっていたなんて噂も耳にする。
誰が何の為に作ったか、時たま設置されている宝箱や罠は誰がどういう意図で設置したのか、それらの問題は大いに学者達を悩ませているらしい。
「魔物、少ねぇな……つまんね」
「だな。魔力が少ないのか?」
「いいえ、そんな事無いはずよ……」
魔物。それは魔力濃度の高い場所から発生し、生物の形を模した化け物達の総称。ダンジョンに多くの場合、魔力濃度が高い為に魔物が多く出現している。
魔術師のイーズさんは魔術を使える。魔術を使う人は大抵、魔力を何となく知覚している事が多い。大魔術師ともなれば、空気中の魔力の揺らぎから相手の行動を予測したり……なんて離れ業も為せるらしい。
魔術の扱いがなってない俺は体外魔力の知覚という段階までは到達していないが、イーズさんは魔術師としてそこそこに戦える人だ。
しかし考えれば考える程に妙な話だ。魔力は濃いのに魔物は出ない。一体どういう理屈なのだろうか……。
大分奥へ進んだ頃だろう。
ふと、ガーリラさんが立ち止まり、目を凝らしてからこう呟く。
「止まれ、魔物だ。三匹……いや、五匹は居る。」
戦闘態勢。
薄暗闇の中から現れたのは、異形だった。
深緑色の肌に黄色い蛙の様な眼、人の子供程の身長に童話の悪い老婆の様な
鋭く不規則に生え揃った牙に長い舌、エルフのように尖った耳にエルフとは似ても似つかない醜悪な顔面。
───
人型の魔物で、低い知性に高い残虐性を持ち、集団で人を襲う化け物。
「オイオイ、やっとお出ましかと思えばゴブかよ! 雑魚じゃねぇか!」
「ギャア!グガァアガッ!」
「グレェォア! ギャッガ!キャッガ!」
「ギュグゥィアッ!」
「気を抜くなルシル、
鼓膜を破らんとするばかりの怒号とも取れる鳴き声が、ダンジョン内に響き渡る。
無駄口を叩きながら、ルシルさんは素早く腰の直剣を抜き、イーズさんは杖を構えて詠唱を始める。
ガーリラさんは弓に手をかけ、俺はナイフを握って唇を噛む。
対する
最初に仕掛けたのはガーリラさんだった。放たれた矢がは
「──
続けてイーズさんの魔術が発動する。
杖の前で淡く輝いた粒子が、浮遊する火炎へと姿をとって
一体の
勢い良く飛んだ右腕が宙を舞い、それを見ながら
耳を
木で出来た棍棒は切れ込みを入れられるが、それに構わず
彼は大きく後ろへ跳び、持ち直した剣で
グエェ、と潰れた蛙の様な断末魔を上げ、盛大に赤錆色の液を撒き散らしながら地面に崩れ落ちる。
「く、ちょっと!」
声を荒らげたイーズさんの方を見ると、近寄って来る
すかさずガーリラさんが弓を構え、三本の矢を同時に放つ。背中を貫かれた
もう一体の
「今タオル出しま……」
「要らねぇ、殺すぞ!」
「あはは、そんな酷い事言わなくてもいいじゃないで……どうしたんスか?」
三人とも、俺を見て顔を青くしている。震えて声も出ない様子だ……。
……いや、これは俺を見ているんじゃない。
生暖かい風が、
低い唸り声のような物が、耳元で小さく鳴る。
「あ、あ、あ……!」
恐る恐る、俺は後ろを振り向く。
そこにあったのは、龍の顔だった。
To be continued…
『#2 怪物』
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