新しい学級
リタが、無事に通称特戦クラスに配属されてから一週間程が経っていた。最終的に、二十四名がこの学級で学ぶことになったようだ。
姉妹やキリカは勿論のこと、リタの知り合いではルームメイトのラキをはじめ、アレクやレオンも同じクラスになっている。この辺りの人間と同じクラスになれたことは素直に嬉しい。
現時点では特段変わった授業は無いが、専用カリキュラムへ向けた準備とも言える授業が始まっていた。特戦クラスに所属するかどうかは、最終的には生徒の意志が尊重されるようで、リタの所に教師が来た時もそのような事を話していた。リタにとっては選択肢など無いに等しかったため、聞き流していたが色々と必修項目などが他のクラスとは異なるらしい。
(ま、全部エリスに任せとけば大丈夫でしょ)
教壇に立つロゼッタが、早速小難しい魔術論について解説を始めている。この学級にいる人間は魔術師ばかりでは無いが、必修科目に魔導戦術論があるためだ。全員が全員というわけでは勿論無いだろうが、この学級の卒業生の中から、今後の国防を担う人間も出てくるのかもしれない。そう言えば、何か誓約書も書かされたなとリタは思いながら、授業内容とは全く関係の無い事をノートに書き連ねていく。
ロゼッタが、時折優し気な眼差しで姉の事を見ていることにエリスは気付いていた。特に敵意を感じることも無いし、寧ろ逆のようにも感じる。だが、彼女の事情はまだ聞けていないし、特にあれから何かあった訳でもない。少なくとも、簡単に心を許し、油断するわけにはいかないだろうとも思っている。
隣を見れば、あまり上手では無い絵で何かをノートに書いている姉の姿が目に入る。授業を聞いていないのはいつものことだが、姉は本当に学院を卒業する気があるのだろうか。一か月後には、学院らしく試験もある。どうせ直前に泣きついてくるに違いない。
本人は、キリカと再会を果たしたことで、学院に来た目的の殆どは達成したと言っていた。そしてこれからは、この世界を生き抜くための力と知識を蓄えながら、来るべき時に備えると。
(備えてるんだよね……? でも、あれって下着の絵、だよね?)
どうせまた、碌でも無いものを作る気なんだろうとエリスは思いながら、ロゼッタの話に耳を傾けるのであった。
所属する人数が少ないこともあって、広々とした教室の後ろの席で、リタは大きく伸びをして身体をほぐす。ようやく放課後だ。今日も授業はあまり聞いていなかったが、実技さえちゃんとしていれば何とかなるだろう。リタはまだ、そんな甘い考えを抱いていた。
とはいえ、リタにとっての最優先事項は決まっている。現在は、その準備の為に色々と手回しをしている段階なのだ。授業に集中できなくても仕方が無い、と自分に言い聞かせる。
エリスはロゼッタに呼ばれたようで、何処かへ行ってしまった。課外活動にも参加していないリタは、放課後は基本暇となる。普段は、訓練場で身体を動かすか、数少ない友人たちとお茶を楽しむくらいしかやることが無い。
「キリカ~? そろそろ夏休みの予定決まった?」
リタは、こちらに向かってきた金髪の少女に声を掛けた。以前から決まったら教えて欲しいと言っていたのだ。キリカも色々と吹っ切れたようで、今では教室でも普段通り接して欲しいと言われていた。キリカ自身の態度は相変わらず変わっておらず、特段仲のいい人間以外にはそっけないままだ。そんな様子に、リタは多少の優越感を抱いていた。
「言っとくけど、私はこう見えても結構忙しいのよ? それと、夜とか休日とかに、私の頭の中に、いきなり話しかけてくるのは、そろそろやめてくれたら嬉しいんだけど……。一方通行だし、凄くビックリするから……」
後半は、罪悪感からか尻すぼみになるキリカの言葉にリタは笑う。
「だって、キリカが首飾り壊しちゃったから、仕方ないじゃん」
「そ、それは、本当に……悪かったと思ってる、けど……。もう、三十回は謝ったわよね?」
流石に、あんまり虐めたら可哀そうだ。実際に、キリカのために新しい魔道具を含め、色々な計画は進めている。だが、それらは来月の彼女の誕生日にプレゼントしたいとリタは思っていた。
(折角だし、次はキリカの気に入ったデザインのやつにしたいな)
「ごめんごめん! とりあえずさ、今週末時間ある?」
「今週末? ええ、あるけれど、どうかした?」
リタの唐突な問い掛けに、少し考えていたキリカだったが首を傾げてリタの意図を問う。忙しいと言っている割には、いつも付き合いのいい彼女にリタは笑って返した。
「色々今後の相談とか、買い物とか、かな? 端的に言えばデートのお誘いって感じ」
自分で言っておきながら、デートという単語のあたりで、心拍数が上がったのを感じる。
「ふ、二人で……?」
からかうようなリタの言葉に、想定通り少し恥ずかし気な反応を返すキリカ。前世のことも知られてるし、デートってのは言い過ぎたかな、とリタは思いながらも頷く。
(でも、私達だけに意味が通じるジョークがあるってのも、何だかいいよね)
「うん、二人で」
「全く……。もうちょっと、いい誘い文句があるんじゃないかしら」
肩をすくめながらも、嬉しそうなキリカの笑顔にリタは満足しながら笑った。
(これで今週も頑張れそう。……あ、でも何か今更緊張して来たかも)
この日は公爵家の令嬢らしく、習い事があるというキリカと別れたリタは、自室にて寛いでいた。特戦クラスになってからというもの、ラキは毎日のようにクラスメイト達に片っ端から模擬戦を申し込んでいるらしい。恐らく今日も帰りは遅いだろう。
部屋の鍵が閉まっていることを確認し、リタはとある商会に繋ぐための魔力を練る。
「――――パウロさん? ええ、お久しぶりです。……いえ、今日はいつものではなく、お願いしたいことがありまして―――――」
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