世界に触れた日

 世界は、変革されなければならない。

 近江慎太郎は、そう信じて疑わなかった。


 自分は三十年弱しか生きていない若造だという自覚もあるし、残念ながら何かを変えることの出来るような立場の人間では無かった。それでも俺なら、何かが変えられる筈だ。誰も成し遂げていないことを。そんな妄執だけが彼の生を繋ぎ止めていたと言っても過言ではない。


 時は二十四世紀――。長く続いた大戦や、富裕層の宇宙移住に伴い地上は荒廃、放射能や空気汚染により防護服が無ければ外も出歩けない環境になっていた。そのため、無菌室で資源としてされている人間達を除いて、ほとんどの人は何らかの病毒に侵され、貧困層の平均寿命は十五歳にも満たない。


 幸運だったのは、慎太郎の家が資産家であり、先立った両親がある程度の蓄えを残してくれていたことであろう。そのため慎太郎は、宇宙への移住こそ叶わなかったものの、サイボーグ化して延命する手術費用も出せたし、価値の無い島を購入して自宅兼研究所を建てる程度の資産はあった。


 だがしかし、慎太郎も他の人間同様に、徐々に汚染された環境に侵されていたことには違いない。いくら生体パーツを換装して延命措置を講じたところで、生身の身体はこれ以上保ちそうにないことを彼は自覚していた。


 そんな日々を過ごすこと幾年。慎太郎が三十歳を目前にして尚、ろくに働きもせずに世界の変革を目指して行動していたのは、自身に奇妙な感覚があったからに他ならない。


 慎太郎は幼い頃に父を亡くし、義務教育を終える頃には母を亡くした。祖父母の顔など知らない慎太郎が、天涯孤独の身となったことの意味を悟り、悲哀に打ちひしがれていた頃のことである。


 何故かあらゆるものや、場所に粒子もしくはエネルギーのような物が存在していて、それらを感覚で感じる事が出来ることに気づいたのだ。それらが何なのか未だに分かっていないが、その性質より、慎太郎は魔素マナと呼んでいた。


 慎太郎も我ながら中二病も甚だしいなとは思っている。自室にて、懐かしい過去を思い返していた慎太郎は、思わず吹き出す。


「ん? だから童貞なのか? 俺」


 いや、悲しくなるからやめよう。これはアイデンティティだからセーフ! と自分に言い聞かせる。どうやら、時を経ても人類はこの中二病という病気を克服することは出来なかったようである。


 そんな魔素であるが、所謂不思議なものやパワースポットと過去に呼ばれた場所に、多く偏在していると慎太郎は感じていた。魔素の挙動は他に観測出来る人間が居なかったため、主観でしかないが存在しているが存在していないという不思議な感覚がする粒子であった。


 また、慎太郎は強く念じると魔素を操作することができた。更に魔素には、微かに物理運動や熱量の法則に干渉出来るという力もあった。だが、魔素を操作しようとすると頭が割れるように痛むため、残念ながら殆ど使いこなせていないのが現実である。


 自分でさえ現実だと認識するまでに時間を要したこと――自身の妄想では無いかと疑う程度の分別はあった――を、特に親しくも無い人間達に信じてもらうことが望めないことは、流石の慎太郎でも分かっていた。そのため、彼はもう十年以上この感覚や力のことは誰にも話さず秘匿している。


「どうせ面倒ごとだけが降り掛かるのは、目に見えているしな」


 ――そもそも話す相手も居ないが。そんなことを考えながら、遠い目をして慎太郎は大好きなキャラクターの描かれたポスターに視線を向ける。誰からも理解されずとも、二十一世紀のアニメや、軽書籍などのカルチャーを嗜む慎太郎は確信していた。俺は特別だ。選ばれたのだと。


 そんな経緯もあり、慎太郎は自身の力を活かして世界を変革すべく、魔素あふれる辺境の無人島を購入。そこに研究所を建て、手当たり次第に思いついたことを実験しつつ今に至るのであった。




 しかし、何かを成し遂げようにも時間が無いのも事実。肉体は限界が近く、どう足掻いても彼の人生は間も無く終焉を迎えようとしている。日を経るごとに強まる終わりの予感は、焦燥を掻き立てていた。


「とはいえ、どうしようもないな」


 現状を打破する術は未だ見つからず。今日もいつもと同じく、モニターの前で唸る慎太郎は、そう吐き捨てた。部屋にも体内にも閉塞感が充満しているようにも感じて、辛気臭い空気を肺から追い出したかったのだ。


 この部屋は勿論、この建物、この島には彼以外には誰もいない。返答を期待しての発言では無かった。単純に、言葉を忘れないようにしているうちに、独り言が癖になっているだけである。以前、暫く声を発していなかった時に、声が出なくなったことがあったからだ。


 ――そして遂に、残された資産さえも底を尽きようとしていた。


 慎太郎は、自分の頭の中を一度整理しようと部屋を歩き回る。そんなことをしても何の意味も無いのだが、座って考えるだけでは気が滅入りそうだったのだ。意味もなく散らかった部屋を歩き回ること数分――。慎太郎は、何かに躓いたことに気付き、その視線を下げた。


「懐かしい本だな」


 慎太郎は腰をかがめると、埃まみれの書籍を手に取った。この時代に、紙の書籍を発行するような酔狂な人間に敬意を表して買ったようなものだ。表紙には「エミュレイアは実在したのか」とある。


「エミュレイア、か……。実在してくれても良かったんだぜ?」


 慎太郎は、一時期ネットで話題になった都市伝説の科学者の名を呟く。本当に、次元波動関数とエミュレイアの法則が導く先に、約束された未来があったならば――。いや、そんなものに縋るのはやめよう。気を取り直した慎太郎は、その本の表紙から埃を払うと、優しく本棚に戻した。




 ――そんな閉塞した日々が続いた、ある日のことだった。


 電子ドラッグを片手に、いつも通りネットオークションで研究資材を漁っていた慎太郎は、「邪神の欠片(笑)」という物体が出品されているのを発見してしまう。瞠目し、何度も眼を擦るも、どうやら見間違いの類ではないらしい。


「おいおい何だよ、(笑)って。そもそも今の時代に(笑)を使ってる奴が、俺以外にもいたのかよ。そっちの方が驚きだよ! ……いや、さすがに邪神の方が驚きか」


 思わず吹き出しそうになるも、こういうものに弱い所こそ、慎太郎が中二病たる所以かもしれない。


「それにしても、胡散臭ぇ」


 そんなことを呟いた慎太郎は、これを見逃してはいけないという強烈な予感を感じ、商品の詳細を見る。こういう時の直感は大体当たるのだ。


「何だよ……、これ……」


 そして、開かれた詳細画面に並んだ写真を目にした途端、間違いないと確信した。そこに映っていたのは、奇怪な、というよりも気色悪い肉塊だ。極めつけは、申し訳程度の「顕現出来なかった邪神の一部」とある、購買意欲を全くそそらない説明文である。


 ……どうやら、世界の変革には、邪神の復活しか無いようだ。変な使命感に駆られた慎太郎は、即決価格で購入した。




 よし、買ってやった。邪神を金で買ったってのも変な話だが……。そんなことを考える慎太郎であるが、彼に残された時間は少ない。準備を進めなくてはならない。


 慎太郎は、ついでとばかりに残る資産の全てを使い果たし、力を内包すると謂れのある物体――アーティファクトと呼んでいる――を世界中から探し出し、更に買い集めた。そういった物の多くには大量の魔素が宿っているからだ。稀に偽物というべきか、本当にただのガラクタでしか無いものも混じっているが、これまでの経験で見分ける力も大分付いてきたように思える。


「買った商品がすぐに届くのは、腐った文明の数少ない利点だよな」


 音もなく飛来した複数の無人機が、玄関の前に荷物を次々と投下しては消えていく。まだ購入手続きを済ませてから、数時間と経っていない。


「それにしても、邪神の欠片って何なんだろうな。臭そう」


 慎太郎は、アシスタントのアンドロイドに、届いた荷物を部屋に運ぶよう命じながら呟く。だが、考えても仕方が無いだろう。実物を確認した方が遥かに早い。そうして運ばれてきたパッケージを確認していた慎太郎は、最初の目的の物を手にした。


「あったあった。やっぱり、最初はこれだよな」


 早速開封するのは勿論、邪神の欠片だ。外装の外からでも分かる圧倒的な魔素の気配が否応にも期待感を高めていく。無機質な硬化フラクタル素子で封をされたパッケージを乱暴に開けた慎太郎の目に飛び込んできたのは、緩衝材の隙間から覗く、真空パックされた肉塊。


「うげぇ、キモッ!? つか、キモいって死語だよな、多分……。けど、本当にとんでもないな。期待以上の魔素だ。こんな物、他には見たことが無い」


 慎太郎は、そんなどうでもいいことを呟きながらも、その手を止めることは無い。開封した真空パックから姿を現した、生臭そうな肉塊を研究室に運ぶと、慎重に大きなシリンダー型の容器に移し入れる。


 慎太郎は臭そうなものは臭いとわかっていても、匂いをかがずにはいられない性質である。邪神の欠片も勿論嗅いだが、匂いはほとんど無かったと記しておく。


「あまりモタモタしていると、床が荷物で埋まりそうだ」


 慎太郎は苦笑いを零しながら、他にも大量に届いている荷物を次々と開封していく。


 元々魔素を多く持つアーティファクトは、大量に集めていた。最後に失敗があってはいけないと今回大量に買い足したのだが、全ての開封を終えて分かったのは、邪神の欠片は正に別格の魔素内包量だということだ。欠片ひとつで他の全てのアーティファクトの合計値の五倍くらいあるようにも感じる。


「くく……。嫌でも期待するよな」


 そうして、思わず笑みが溢らしながら、慎太郎は邪神復活のための準備を進めるのであった。




 さて、肝心の邪神を復活させる方法であるが、とにかく欠片にアーティファクトを全部繋いで、魔素を欠片に送り込めば後はどうにかなるだろうという、単純な考えであった。しかし、欠片ひとつで既にこれだけの魔素を内包しているのだ。他の魔素を収束してもあまり変わらないんじゃないか? と少し不安にもなる。


 実際のところ、慎太郎自身、件の品があまりにも胡散臭いことや、魔素で邪神が復活するなど荒唐無稽な仮説である事は、百も承知である。それでも、何故かこいつには賭ける価値があるという強烈な予感が、慎太郎に生まれていたのだ。それこそがきっと、邪神の呼び声なのだろうと慎太郎は結論付けていた。


 他人が見れば、どういう思考を経てそのような結論に至ったのか、甚だ理解に苦しむだろうが、彼を突き動かすのは元よりただの妄執と勘に他ならない。自身の余命を考えても間違いなく最期の実験になる。だからせめて、単にそれだけが唯一解であると、信じていたかっただけなのかもしれない。


 正直なところ、慎太郎とて復活した邪神に今の文明を滅ぼしてもらいたいだとか、そういった破滅的なことを考えているわけではない。事実、彼自身も世界の変革を目指すと言いつつ、具体的なことは何も考えていなかった。目を逸らしていた、と言い換えることも出来るだろう。


 それでも、と彼は言うだろう。「もし、人間の生に価値が無くとも、生きた意味があったと思って死にたい」と。




 慎太郎はこれまでの研究から、魔素は純粋なエネルギーと親和性が高く、物理法則を無視したエネルギー変換を起こすことが出来るのでは無いかという仮説を立てていた。彼の力ではごく僅かにしか干渉出来ないため、机上の空論であることは否めないが、これは例えば、核融合反応を純粋な熱量爆発などのエネルギーに変換可能であることを示している。


 この時、シミュレーション上では魔素と本来核融合を起こすはずの原子は消失し、何処からともなく熱量が発現するため、恐らく違う次元や世界にアクセスして相互変換もしくはエネルギー交換をしているのでは無いか。そう仮説を立て、慎太郎は妄想を楽しんでいた。


 だが真に驚くべきは、この結果を呼び出すために人間――慎太郎――の意識が干渉していることであろう。念じたことの結果だけを発現する。まさに魔法のようだ。あぁ、せめて自分にもっと強い力があればと、そう思わずにはいられない慎太郎であった。


「俺が沢山いれば、人類はエネルギー問題に悩まされることなんか無かったのにな」


 慎太郎は、件の肉塊を安置した容器に、某所で購入した保存液を注ぎ込みながら、しみじみと呟いた。とはいえ、そんな規模の反応を現実で起こすには果てしない数の慎太郎を犠牲にする必要があるのだが。


 どちらにせよ、魔素自体が何処から発生するのか、無限に存在するのかについては、全く見当もつかないため、大量のクローンの慎太郎が頭を割られる未来は回避出来るだろう。


 とにかく、どうせもうすぐ死ぬのなら、自分の力を限界まで使って、全て残さず注ぎ込んでやるだけだ。邪神にはきっと魔素が足りていないのだ。集めてやれば復活するだろうし、復活しなくとも熱量に変換して地球にとどめを刺せるのならそれはそれで面白い。まぁ、さすがに惑星を滅ぼせるほどのエネルギーを扱うのは俺には無理だし、邪神に期待の一択だが……。慎太郎は、にやりと笑うと優しく邪神の欠片(笑)の入った容器を撫でた。


「さて、そろそろ覚悟を決める時か」


 微かに寂しさを滲ませた自分の声に辟易した慎太郎は、アシスタントのアンドロイドも動員してアーティファクト同士をひたすらに接続していく。


 多くの実験機器類も、ようやく本来の役目を果たせる事を喜んでいるだろうと思う。とはいえ、邪神の欠片に魔素を収束するための中央の大きな装置は、慎太郎の血液とプラズマ化したオゾンに電圧をかけるだけの機構なので、周囲の大仰な機械たちはただの賑やかしになっている感は否めない。


 それでも、ここまでの研究を支えてきた大切な助手達のようにも、歴戦の勇士のようにも慎太郎は感じていた。勿論、雰囲気の大切さは言わずもがなである。


 そうして、全ての実験の準備が整った。


「――諸君、遂に……、遂に、我々はここまで来た」


 慎太郎は威厳を込めたつもりの声を発する。そして一呼吸を置くと、一言ずつ噛みしめるように言葉を繋いだ。


「邪神をこの世界に顕現させ、終わり方を間違えた世界に、変革の狼煙を上げる時が来たのだ。――――いよいよ、その時が来ると思えば、非常に感慨深い。思い返せばあまりにも遠回りをしてきた我々であるが、ようやく最終目的地点であると同時に、我々のための我々のいない未来の開始地点に手が届くのである」


 そして少し逡巡の間が空く。恐らく続ける言葉が思いつかなかったのだろうが、言わぬが花というものだ。


「……これまで長くを共にしてきた諸君には、これ以上の言葉は必要あるまい。作戦決行時刻Zero Hourは、西暦2314年八月十日、日本時間〇六:〇〇マルロクマルマルとする。――以上ッ!」


 こういうのは、中身より雰囲気が大切。そうだろう? 居もしない誰かに必死に言い訳をする自分が情けないとは思いつつも、慎太郎は微かに笑みを漏らした。


 そうして無言のアンドロイドと研究機器に対して、しょうもない演説を捧げた慎太郎は、万全な体調で命を燃やし尽くせるよう、最後の睡眠に入るのであった。




 ――暫くの休息の後、慎太郎はこの世で最後となる朝を迎えた。


 脳髄には、最低限の補助装置を組み込んでいるため、起床の為のアラームなど彼には必要ない。慎太郎は静かに上体を起こすと、体調も問題無いことを確認し立ち上がる。


 外の景色を見ることも、言葉を発することもない。既に三次元への別れは済ませていたし、二次元に生まれ変わると思えば今更大した感慨も無い。今はただ、余計なことに一切のエネルギーを使いたくないのだ。


 死装束は以前から決めていた。それは何の変哲も無い黒い外套だ。一切の光沢も飾り気もない。慎太郎は死後の世界も、人の形をした神も信じていない。だから、生命活動を終え、ただの死骸と成り果てる際には、無を連想する黒がよく似合うと思っていたのだ。


 そうして漆黒の外套を羽織った慎太郎は、文字通り自分のとなる大部屋に移動するのであった。


 慣れた手つきで、壁際の機器を操作すると空中に各機材のステータスが表示される。全てが問題無いことを確認した慎太郎は、ゆっくりと部屋の中央に向かった。あぁそういえば、これが最後の歩行かと思いながら。惜しむらくは、踏み出す足は既に肉の足ではなく、ふらついた足取りと金属の足音だったことだろう。


 部屋の中央にある、邪神の欠片を収めた一際大きな容器に慎太郎が近づくと、周囲に明かりが灯った。決して美しい光景では無い。だが、緑の溶液に浸かる肉塊を前にした黒服の自分は、物語のマッドサイエンティストのようで、少し笑いそうになった。


 ――そして迎えた、決行の時間。

 後戻りなどする気はさらさら無いが、決意が鈍ったり、痛みに負けて途中で意識を失うことが無いよう、慎太郎は自動的に脳内に麻薬を注入するように脳髄補助システムにセットしていた。


 すっと頭が冷えていくような感覚を感じながら、慎太郎は手元のスイッチで躊躇いなく終わりの引き金を引いた。やはり、この手のものは、物理スイッチに限るな。と、どうでもいいことを思いながら。


 とりあえず、問題なく作動したようだ。時を置かず、微振動と機械の作動音が建物を満たしていく。電圧も順調に上昇しているようだ。慎太郎の目には、渦を巻くように魔素を吸い込む邪神の欠片が映る。それを認識した慎太郎は、静かに、全力で魔素を動かし始めた。


 この世の全てを集めるような、自身の魂を燃やし尽くすような、そんなイメージで。アーティファクトを幾ら繋いでも、まだ足りないと言い聞かせ、島中から集めて練りこんで注ぎ込む。


 麻薬を流し込んでいるというのに、頭がすり潰されるような痛みが走る。


(最期なんだ……。簡単にくたばってたまるかよ!)


 慎太郎は、必死に歯を食いしばった。あまり健康に気を使っていなかったせいか、奥歯は簡単に砕け、鉄の味が口内を満たしていく。


 中央の容器が発する光は、既に眩しいという言葉で形容出来る領域を超えている。だが、人生最後の景色を見逃す訳にもいかない。気を抜けば倒れそうな震える膝に力を入れた慎太郎は、その双眸を見開き邪神の欠片を見つめる。


 肉塊の奇怪な動きは、ダンスのようだと思うことで、正気を保つ。

 視界が突然赤く染まった。眼球の血管が切れたのだろう。最早どうでもいい。


 もう、これ以上は無理だ――。


 そう思う自分の限界を更に超えるため、慎太郎は声に出して自身の覚悟を問う。


「さぁ、世界の変革を始めよう!」


 涎を垂らし、声にならない叫びを上げながら、慎太郎は右手を真っすぐに邪神の欠片に伸ばした。


 知覚の許容量を遥かに超えて流れ込む情報に、慎太郎の意識はバラバラになっていく。


 時間が引き伸ばされて行く感覚に永遠を感じながら、彼は確かに、世界に触れたのだ。



 音もなく、色も無く、痛みもなく。


 ――――ただ光の中で、誰かの声を聞いた気がした。

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