ノート2.13 ジャンルによって、評価に差はあるの?
(注意)本作のデータは全て2021年1月19日から20日にかけて取得されたものです。
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「最近は異世界転生ものや悪役令嬢ものが流行ってるけど、ジャンルによって評価って変わったりするのかしら?」
俺――
「確かに、小説タイトルの長さやキャッチコピーの有無で評価に差が出ていたし、ジャンルが違うだけで星を獲得できる数が違うということはあり得るな。なんでそんなことを聞くんだ?」
「カクヨムのコンテストを見てると、★の付きやすいジャンルとそうじゃないジャンルがあるような気がするのよね」
「あー、それはあるかも知れないなぁ。カクコンの異世界ファンタジー部門とか文字通り異世界化してるし、ラブコメとかさらに熾烈を極めてる印象がある」
「と言うことはさ、カクヨム全体にもそんな傾向があるんじゃないの?」
「それについて調べてみようか。なんかケイコちゃんが妙にやる気だし、早速始めよう。
今回のテーマは、ずばり『ジャンル別に作品を分けたときに、星の中央値に差が出るのか?』だ」
「ちなみに、カクヨム全体における ★ の中央値は確か ★ 3 だったわね」
「その通りだ。
今回扱うジャンルは、オリジナル小説の主要 12 ジャンルに加えて、2次創作小説の中から代表して『けものフレンズ』に登場してもらう」
「分かったわ」
「それでは、結果を紹介しよう。こうなったぞ」
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統計情報:ジャンル別中央値(2021年1月20日)
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1位:★ 4 けものフレンズ(1,700 作品)
2位T:★ 3 異世界ファンタジー(38,261 作品)
2位T:★ 3 恋愛(25,253 作品)
2位T:★ 3 SF(15,724 作品)
2位T:★ 3 現代ドラマ(32,488 作品)
2位T:★ 3 ラブコメ(14,659 作品)
2位T:★ 3 歴史・時代・伝奇(4,595 作品)
2位T:★ 3 ミステリー(6,035 作品)
2位T:★ 3 ホラー(10,156 作品)
2位T:★ 3 創作論・評論(2,411 作品)
11位T:★ 2 現代ファンタジー(26,286 作品)
11位T:★ 2 エッセイ・ノンフィクション(12,062 作品)
13位:★ 1 詩・童話・その他(24,542 作品)
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備考:T はタイを表す
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「ちょっ、タケル君! けもフレを入れたのはこれを狙ってたんでしょ!?」
「たまたまだ……。研究ノートは前後するけど、『けものフレンズ』は独立したクラスターだと認定してるしな」
『ノート4.10 タグのクラスタリングによって、新しいジャンルの発見を試みる(その3)』
https://kakuyomu.jp/works/1177354055450204744/episodes/16816452218586780398
「まぁいいわ。とりあえずこれは横に置いておきましょ。『異世界ファンタジー』や『恋愛』などは横一線だけど、まさかの『現代ファンタジー』がランク落ちしてるわね」
「だけどね、ケイコちゃん。前から口酸っぱく言っているように、この中央値が統計的に差があるかどうか、見た目で判断することは難しいんだ。確かに今は『けものフレンズ』の中央値が 1 番大きいし、『現代ファンタジー』は他と比べて見劣りするけど、それがそのまま群間の差になっているかどうかは分からないんだ」
「うー、そんな話があったような。難しくてあんまり覚えてないんだけど……」
「ちょっとだけ復習しよう。
いくつかの標本――サンプルがあったとき、これらに統計的な差があるかどうかを調べる方法を『検定』と呼ぶ。今までの研究ノートに登場したのは、ウィルコクソンの順位和検定と言うものだった。これは、2 つのサンプルにおけるそれぞれの中央値に差があるかどうかを調べる方法だ」
「今回もそれを使うの?」
「いや、新たな検定手法を導入する。その名も、『クラスカル・ウォリス検定』だ」
「ラスカル? ノース?」
「あらいぐまか……?
ウィルコクソンの順位和検定が 2 つのサンプル間しか調べられないのに対し、クラスカル・ウォリス検定は 3 つ以上のサンプル間の中央値に差があるかどうかを調べることが出来る。13 種類のジャンル間を調べるのにもってこいだ」
「うーん、ちょっと質問があるんだけど」
「何?」
「わざわざそんな難しそうなものを使わなくても、今までみたいにウィルなんちゃら検定を使って組合せを調べればよくない? 例えば、A、B、C というサンプルがあったときに、A と B、B と C、そして C と A を調べれば十分じゃないの?」
「それをやっちゃダメなんだ。なんでかというと、検定を何回もやると誤差が積み重なって結果を歪めてしまう恐れがあるんだ。この問題を『検定の多重性』と言う」
「ひーっ、なんか墓穴を掘った! 全然分からない!」
「とにかく、『検定を行う場合は 1 発で決めろっ!』ってことさ」
「な、なるほど。そういうことにしておこう」
「と言うことで、数学的な話は全て省略し、クラスカル・ウォリス検定と種々の分析を施した結果を紹介しよう。下の表を見てくれ――」
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統計情報:ジャンル別中央値(2021年1月20日)
クラスカル・ウォリス検定を適用した結果
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1位:ラブコメ
2位:歴史・時代・伝奇、けものフレンズ
3位:異世界ファンタジー、ホラー、創作論・評論
4位:SF、創作論・評論
5位:恋愛、ミステリー、創作論・評論
6位:現代ドラマ
7位:現代ファンタジー、エッセイ・ノンフィクション
8位:詩・童話・その他
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備考:同じ順位内は有意水準 1 % で有意差無し
各順位間に有意水準 1 % で有意差有り
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「ん? 順位が付いてるわ。これは順位が高いほど ★ の中央値が高いということかしら? しかも『創作論・評論』が複数のランキングに入ってるし……。訳が分からん」
「まぁ、今回の様な多重サンプル間の統計的分析でたまに起こる現象だな。
順を追って説明しよう。まず、13 種類のジャンルを同時にクラスカル・ウォリス検定で分析を行ったところ、有意水準 1 % で有意差有り――つまり、サンプル間で中央値に差があるという結果になった。
しかし、この検定だけではどのサブサンプル間に差があるのかは分からない。そこで、検定の多重性問題を回避する方法を使ってサブサンプル間の検定を再び行って、どこに差が生じているのを特定した結果が上の表だ」
「結局、検定を繰り返し使ってるのか。まぁ、詳しくツッコむことはやめておくわ」
「結果の考察に移ろう。
1 位は『ラブコメ』となった。コンテストで星が入りやすいともっぱらの噂だったが、全体的に見ても評価されやすい傾向にあるということが統計的に示されたぞ」
「印象だった話が数字でちゃんと議論出来たのは画期的かも」
「話を続けよう。
意外に思われるかも知れないが、2 位は『歴史・時代・伝奇』と『けものフレンズ』だ。理由は定かでないけど、俺なりの考えはこうだ。
もし『書き手』が歴史小説や時代小説を書こうと思ったとき、膨大な事前知識が必要になる場合が多い。そして、その小説を通して今まで知らない事実に『読み手』が触れて感銘を受けたとき、『へぇ、そうだったんだ~』という驚きの感情が『読み手』を評価に誘うのだろう」
「アハ体験ね」
「アハ体験……なのかな?
そして、『けものフレンズ』は評価が得意なフレンズがたくさんいるんだろう。あ、決して馬鹿にはしてないからね? 勘違いしないでよね?」
「大丈夫、けもフレの住民は分かってくれるわ」
「次は下位に目を向けよう。
残念ながら、『現代ファンタジー』のランク落ちは現実のものだった。これも理由はよく分からないけど、こんな感じかなーという私見を述べておく。
『現代ファンタジー』はその名の通り舞台が現代であるため、ある程度現実との整合性が求められる。その一方、ファンタジーと銘打たれているので現実を無視した超常現象も必要になる。これは非常にバランスが難しい問題で、それが『読み手』にとっていい塩梅になってないと評価されづらいのではないだろうか。
さらには SF との競合問題もある。半端に科学してしまうと SF フリークからダメ出しを喰らうし、かといってまるっきり科学を無視してしまうとリアリティが無くなってしまう。
これは、『現代ファンタジー』というジャンルが本質的に抱える欠陥だと俺は思っている」
「商業作品を見てみるとカクヨムでは『現代ファンタジー』に分類されそうな作品が多いけど、いざ自分で書いてみると難しいってことなのね」
「って言うかタケル君、考察が残ってると思うんだけど」
「えーっと、あんまり触れたくない」
「『エッセイ・ノンフィクション』も『現代ファンタジー』と同じく全体に比べてちょっと評価が低いわよ? この『真実』は『エッセイ・ノンフィクション』に設定してるんだから、これは由々しき事態ね!」
「やばいな。正直こんな結果が出るとは思ってなかった。『創作論・評論』に鞍替えしようかな?」
「いやいや、それは安易すぎるーっ! もうちょっと頑張って、タケル君!」
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今日の研究ノートまとめ
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・ジャンルによって評価が変わるか調査
・中央値の意味で『ラブコメ』がトップ、2位に『歴史・時代・伝奇』と『けものフレンズ』が続く
・『現代ファンタジー』が下から 2 番目と厳しい結果が示された
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