人工知能・機械学習編
4. 基礎知識
ノート4.1 人工知能って何?
俺――
「ねぇ、タケル君。『人工知能』って言葉をよく聞けど、一体何なの?」
このとき、アナウンサーが『人の顔写真だけで認知機能が低下しているかどうかを人工知能により判別可能』であることを、東京大学を中心としたグループが世界で初めて示したことを伝えていた。
「良い質問だ。なにせ、その質問には正しい答えが無いからな」
「え、一体何を言い出すの」
「じゃぁ、逆に俺がケイコちゃんに質問するよ。ケイコちゃんが思う人工知能――AIって何?」
「それを知りたいからタケル君に聞いてるんでしょ」
「まぁまぁ、思いついたままでいいからさ。さっきも言ったでしょ、正解は無いって」
「変な答えを言っても馬鹿にしないでね。お願いよ?」
「分かった」
「うーん、そうだなぁ……。人工知能と一緒に『機械学習』という言葉をよく聞くわね。マシーンラーニングって言うんだっけ? なんかよく分からないけど、凄い技術らしいというイメージね。
だから、機械学習が人工知能かしら」
「なるほど、やはりそう言う認識なのか」
「おかしい?」
「最近人工知能という言葉がバズワード化してて、さらには『機械学習
「むむ、なんか馬鹿にされてる気がする」
「ごめんごめん。そんなつもりはないよ。
『機械学習
最近ニュースを賑わせた人工知能と言えば、美空ひばりを機械学習で蘇らせたとか、機械学習を使ってワクチンを開発しただとか、イチゴの収穫時期を機械学習を使って判断出来るようになったとか――つまり、人工知能のニュースで出てくるキーワードは、大抵機械学習がらみなんだ。
あまりに頻繁に人工知能と機械学習と言う言葉がセットで登場するものだから、そのうち人々が人工知能と機械学習を同一視するようになってしまったと、こういう訳だ」
「確かにそうかもしれない……」
「ここではっきり言っておきたいのは――」
『機械学習は人工知能の技術の1つであって、人工知能が機械学習ということではない』
「――ということだ」
「なるほど。確かにそういう誤解はあったかもしれない」
「ここからは、『カクヨム小説の真実』の新章――人工知能・機械学習編を始めるに当たって、まずは人工知能とは何かについて『読み手』の人に知ってもらおうと思う」
「勉強は苦手だけど……この際だからタケル君に教えて貰おうっと」
そう言うとケイコちゃんはすくっと立ち上がり、いつもの研究スペースへ向かっていった。俺はテレビの電源を消し、彼女の後を追う。
2人が研究デスクに向かい合って座ると、俺はおもむろに話し始めた。
「そもそも、AIって何の略か知ってる?」
「あ……、いいかも?」
「もしかして、それは答えのつもりだろうか……。AIは、
「そのまんまね」
「辞書で意味を調べるとこんな感じだ」
コンピューターで、記憶・推論・判断・学習など、人間の知的機能を代行できるようにモデル化されたソフトウエア・システム。AI。(デジタル大辞泉より引用)
「うーん、抽象的でよく分からないわ」
「じゃぁ、2地点間を行ったり来たりするロボットを例に考えてみよう。まず、記憶だ。このロボットに関して、どんな記憶が必要だと思う?」
「そうねー。まず、どこからどこへ移動するか覚えてないといけないわね」
「そう。これが人工知能だ」
「……え? えぇ? いやいや、これは人工知能じゃないでしょ」
「人工知能だ」
「なんか突然うさんくさくなってきたんだけど、大丈夫かしら……」
「じゃぁ、次は推論」
「どうやって移動しようかとか、移動する途中に障害物があったらどうしよう……とか?」
「そう。これが人工知能だ」
「本当に? 2つ目にしてとてつもなく不安なんだけど」
「3つ目の判断はどうだろうか」
「この道で進みましょうって決めること」
「そう。これが人工知能だ」
「やばい、まじでうさんくさい」
「ラスト、学習は?」
「さっき選んだ道は時間がかかったから、次は別の道にしよう」
「そう! これが人工知能だ!」
「さっきからそれしか言ってないけど一体何なの!? 本当に人工知能なんでしょうね!?」
「もちろんだ。
まずは記憶。今の例は2つの地点を覚えておくだけでよかったからいいものの、これが複数の地点の組合せとなると途端に話が複雑になる。
今回はあそこに行くけど、次回はあそことあそこに行かなきゃ――こんな組合せがある場合、行くか行かないかの2択にも関わらず、10地点だと2の10乗で1,024通り、100地点になると1の後に0が30個つく羽目になる。
これを
「うは……とんでもない数字ね」
「つまり、情報をどれだけコンパクトに記憶出来るかという技術はれっきとした人工知能なんだ」
「へぇ、全く知らなかった」
「次に推論。これは文字通り物事を論理的に推測することで、『AならばB』みたいな論理学が代表的な例だ」
「論理学が人工知能? 本当に?」
「もちろんだ。むしろ、人工知能の黎明期は論理学が主体だったと言ってもいい」
「ちょっと信じられないなぁ」
「次は判断だ。これは意志決定とも呼ばれていて、色んな方法があるぞ。『最適化』って言う言葉は聞いたことある?」
「あると言われればあると思う。でも、なんか漠然としたイメージしかないのよね」
「最適化は身近に存在している。例えば、家計の支出を出来るだけ少なくしようとすることは立派な目的関数最小化の最適化問題だ。また、カクヨムで星を最大限獲得しようと努力するのもある意味最適化問題と言える」
「そんなことまで含まれちゃうの? やばいな」
「後、判断でよく出てくるは『ゲーム理論』ね」
「え? ゲーム?」
「あ、ケイコちゃんが今想像しているであろう、プレステやスイッチみたいなゲームとは違うぞ」
「そうなんだ……」
「ゲーム理論とは、複数のプレイヤーが与えられた環境下でどのような意志決定を行うかを数学的に考える学問だ」
「なんかとっても難しそうね。でも、私達には関係ないんでしょ?」
「そんなことはない! 例えば、空港警備員対テロリストの意志決定をゲーム理論でモデル化して、『どのような配置で警備をすればテロを防ぐことが出来るか?』といった事例に応用されている」
「えぇ! それって滅茶苦茶大事な話じゃん。って言うか、そんなことが出来ちゃうのね」
「そうだよ。
最後は学習。これはある入力を与えたときに、望ましい出力を得るために色々と調整する方法の事だ。その方法論の1つとして機械学習が存在する」
「あー、だからさっき『機械学習は人工知能の技術の1つ』と言ったのね。ようやく理解したわ」
「つまり、人工知能の正体とは――」
人の知能や行動を機械で真似するための技術の寄せ集め
「――なんだ」
「あれ? タケル君、最初に人工知能に対する『正しい答えはない』って言ったわよね」
「うん。言ったね」
「答えちゃったじゃない!」
「いや、全然そんなことはない。何故なら、上の言葉は次のように変換出来ちゃうからだ」
人の知能や行動を機械で真似できたら、どんな技術だって人工知能
「……
「俺が言いたいのは、その技術を作った人が『これは人工知能だ!』と主張すれば、反論は難しいと言うことだ。
例えば、『表計算ソフトは足し算や引き算と言った人間が行う知能的作業をやってくれる。だから人工知能だ!』と主張してもおかしくはない」
「いや、それはどう考えても人工知能じゃないでしょ」
「ほらね、すでに意見の食い違いが出た。
つまり、どれが人工知能として正しい技術でどれがふさわしくない技術かなんてことは、人によって答えが違ってるんだ。明確な線引きが出来ないんだよ。だから、これをもって正しいという答えは存在しないって訳。
人工知能という言葉がバズワードと化しているのは、これが原因でもある」
「なるほど、色んな考え方があるってことかー。勉強になったわ。ありがとう、タケル君」
「いえいえ、どういたしまして」
「それで気になるのは、この『人工知能・機械学習編』では一体どんなことをやっていくつもりなの?」
「よくぞ聞いてくれた。この作品では、カクヨムから得られたデータと人工知能の技術を使って、様々な分析や検証を行っていこうと考えている。
例えば、数理科学を用いたタグの分析、機械学習を用いたユーザーや小説のクラスタリング、自然言語処理を使った小説本文の特徴量解析、感情分析、そして小説の自動生成などを予定している」
「滅茶苦茶本格的じゃない。凄いわ!」
「ただし!」
「ん? ただし?」
「ネタは現在進行形で作ってるので、更新頻度は高くないぞ! 覚悟してくれ!」
「え、今作ってるの!?」
「小説本文をWord2Vecにかけて早1週間、未だに結果が出てこない」
「そのワードなんちゃらと言うのは分からないけど、流石に21万作品は手強いのね……」
「まぁ、気長に付き合ってくれると嬉しいな」
「はーい。それじゃぁ『読み手』の皆さん、私と一緒に待とうね。ケイコとの約束よ? お願いねっ!」
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今日の研究ノートまとめ
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・人工知能について紹介
・人工知能とは技術の集合体
・本作品では主に自然言語処理技術を用いる
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