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その後、ケンタさんの安全は確保され、平和な学校生活が戻ってきたそうだ。
あのあと僕たちは三人組を引っ立てて、菊原先生にすべてを報告した。なぜか彼らが脚と両目を押さえていたことに関しても、「見かけて注意したら逆に蹴飛ばされたりしたので、身の危険を感じてつい……」とサクラ先生が涙ながらに訴えると、拍子抜けするくらいあっさりと菊原先生は信じてくれて、逆に謝罪までされてしまった。
「申し訳ありません! 本当に、お怪我はありませんでしたか?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
健気な感じで笑顔を浮かべてみせるサクラ先生の背後から、「文句ないよな?」と言わんばかりの鋭い目でオウジさんとマユさんが三人組を睨みつけていた気もするけど、まあ見なかったことにしておこう。
菊原先生から報告を受けた学校側はあらためて厳しい対処を取り、三人組には「次に同様の犯罪を犯したら退学」という通達付きの停学処分、逆にケンタさんの両親には校長先生みずからが家に足を運んでの謝罪と、「また同じ事が起きたら、遠慮なく訴訟を起こしてください」という申し出までしたらしい。
数日後のABC活動の際、それらの報告をしてくれたのはもちろんマユさんだ。話を聞いたオウジさんだけは、「なんだ、退学じゃねえのか。どうせクズみたいな奴らなんだから、人生終わっちまえば良かったのに」と心底残念そうだったけど。
ついでにというのも変だけど、僕たちABCにもささやかな変化があった。説明するまでもなく、それは――。
「お疲れ様でーす! わあ、本当にみんなで行くんですね! なんかいいですね、こういうの!」
いつもの見回りに出るため、マユさんが勤めるコンビニの駐車場へと集まった僕たちに、やたらと爽やかな声がかけられる。声に相応しい軽快な足音とともに駆け寄ってくる、しなやかですらっとした身体。
「なんか、カモシカとかガゼルみたいだよね」
「ああ、わかります。ぴょんぴょん跳ねてる感じ」
「でも舐めてかかると、後ろ足で強烈な蹴りが飛んできちゃうみたいな」
ひそひそと囁き交わす僕とマユさんに、オウジさんも苦笑とともに加わる。
「蹴りじゃなくてスタンガンとか催涙スプレーだけどな。他にカラーボールとかも持ってるらしいぞ」
「サクラ先生、防犯グッズマニアだったんですね」
「ああ。俺も全然知らなかったけど」
というわけで、勢いに任せたオウジさんのスカウトにより、めでたく(?)サクラ先生もABCの一員となったのだった。しかも攻撃、もとい、自衛手段は今話した通り様々な防犯グッズを駆使するという、格闘型のオウジさんやマユさんとはまた違ったスタイルだ。ある意味、一番敵に回したくないタイプかもしれない。
「前衛があたしとおじさんで、後衛がサクラ先生って感じね。RPGで言うと、魔法使いポジションが加わったみたいな」
ゲーム好きだというマユさんが、顎に手を当ててぼそりとつぶやいた。
「ちなみに僕は?」
戦闘行為が苦手な僕は、キャラ的に何になるのだろう?
「う~ん……盗賊? いや、遊び人? あ! ペットで連れてるスライムとか?」
「……一応、盗賊でいいです」
というか、盗賊って時点で僕も犯罪者なんですが。
「マサキはさしずめ、勇者見習いってとこだな」
めずらしく無難なコメントをしてくれたあと、オウジさんはサクラ先生に確認した。
「サクラ先生、お仕事は終わったんですか?」
「もちろんです! このあとにABCデビューが待ってるって思ったら、なんかノリノリになって振り付けもちょっと難しくしちゃいました。あはは」
新人のアイドルかスポーツ選手みたいな台詞だけど、言うまでもなく僕たちが行うのは、いじめや恐喝を取り締まる自警団的な活動です、はい。
「今日はどっち方面を見回るんですか? ウンコみたいな奴がいたら、ばっちり掃除しましょうね!」
「そ、そうっすね。は、は、は」
「……やっぱり魔法使いが一番危険よね」
マユさんとは別の意味で「見た目詐欺」な、しかもやる気満々の新メンバーの宣言に、同じく武闘派の二人もさすがに笑顔を引きつらせる。
でも、なんか楽しいかも。
僕だけが素直に笑ってしまったかと思ったが、一呼吸遅れてオウジさんとマユさんも同じ顔をしていた。
「よし、じゃあ行くか。ABC、今日の活動開始だ!」
オウジさんの声とともに、僕ら四人は揃って歩き出した。
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