第140話 stand-alone ⑤

「こっちは随分と減ったが、向こうのデカブツは健在か」

「あれだけ爆発しまくってるのに、倒せないんじゃないのか」


 東京タワーの中腹で眼下がんかの敵を狙撃し続けていた大慈だいじ真世まよの二人が、リロードの合間に遠くの――と言うには近すぎる距離まで接近し、ビルの青白い光と爆発の赤に照らし出される大塊獣だいかいじゅうを見る。

 東京タワーの高所に居ても尚、その歪な頭部は目の下には来ない。

 距離、およそ1キロ弱。


「大丈夫かな」

「彼を信じるしかない。こっちはこっちで、手一杯だ」


 到達する軍曹ぐんそうの数は随分と減ってきているが、それでもまだやって来る。

 射出される腕も、一本一本が致命傷になり得る威力いりょくだ。

 遠距離の狙撃を主とする二人の元にも、何本かの腕は伸ばされた。

 その為、狙撃ポイント付近の鉄骨や落下防止用のあみは無残に千切られ、ひしゃげている。


「左方向のビルから来る。死角ギリギリだが狙えるか?」

「やってみます。……ホントに微妙なとこだな」


 真世が弾倉に手をかざしてスキルを発動。

 複数の手で綿菓子わたがしを持つことで滑空かっくうして来る軍曹に銃弾を見舞う。

 だが、東京タワー自体が邪魔となって上手く命中しない。4発中、1発のみが軍曹ではなく、左翼さよくの綿菓子の一体に命中。

 羽が一枚凍り付いた事でグルグルと回転しながら建物の横っ腹に突き刺さる。

 これで死んでくれれば簡単なのだが、当然その程度で死ぬほど軍曹はやわではない。

 用済みの綿菓子を地面に放り投げ、複数の腕でズリズリと壁を這い上がって行く。


「よく当てた。あれだけ削れば、後は下で対応出来るだ――――」


 大慈の言葉は、まばゆ閃光せんこうと、鼓膜が張り裂けんばかりの轟音に掻き消された。

 全員の動きが完全に止まる。

 普段の恭平きょうへいの爆発とは一線をかくす、体が芯から震える音だった。

 不気味なのは、それだけの大轟音でありながら、衝撃波の一つも来ない所だ。


「あれは……」


 恐らく音がした方角。

 二人は耳鳴りで音が聞こえない状態でありながら、轟音の出所である大塊獣の方に顔を向ける。

 先程まで健在だった大塊獣が動きを止めていた。


「何が起こったんだ?」


 連続爆撃を喰らっていた少し前と、見た目に大きな変化は見受けられない。

 炭化たんかの状態も、下半身に集中している。

 唖然あぜんとする中、大怪獣がボロボロとその巨体を頭頂部から崩しはじめていた。


 ◆◆◆


 時間は20秒ほど前に巻き戻る。

 恭平にとっては長く引き伸ばされた時間の中である。


「くっそ……」


 敵に登った所までは良かったが、想像していた成果は得られなかった。

 表層の炭化していない部分に攻撃をしてみた所で、ダメージはほとんど変わらなかったのだ。

 これでは、したで地道に爆撃を加えているのと何ら変わりない。

 弱点が無いか探しても見たが、それらしきものは見当たらなかった。

 頭部もただかざりのようで、ダメージの度合いもあまり変わらない。

 はたから見る分には効いているようにさえ見えなかった。

 何よりよくないのが、それを確かめる為に時間を喰いすぎた事だ。

 東京タワーも近い位置まで来ている。スペシャルショットではもう間に合わない。

 何か他にいい方法は? こいつのぶよぶよの肉装甲にくそうこうを貫通するだけの威力のある攻撃が。

 思い当たる節は、一つあった。

 恭平が取得できる最後のレアスキル『弩級開眼どきゅうかいがん』。

 とはいえ、仮に使える状態だったとしても、未だ2度目のラッシュである青嵐せいらんの大ボス相手に使うのが適性だろうか。

 今後、これを上回る強敵が現れる可能性が高いというのに、切り札を切るのは愚策ぐさく


「手は、ある筈なんだ……」


 攻略できない敵を設定するほど、この世界は意地悪だろうか。

 そうかもしれない。だが、こんな青嵐の中盤で?

 ダメージを与えられない訳ではない。内部なら有効なダメージが与えられる。

 恭平の爆発では、それに届かないだけ。


 いやいや、この規模の爆発でダメならどんな攻撃、スキルがあれば装甲を貫通出来る?

 ……貫通、そう貫通だ。爆発は範囲と面の攻撃。

 装甲を貫通させるには、鋭利で威力が高く、なるべく狭い範囲の攻撃が有効だ。

 真っ先に浮かぶのはスナイパーライフル。だが、他の皆の手を借りる訳ないは行かない。

 皆は今頃、複数の軍曹を相手に苦戦を強いられている筈。

 その戦力と均衡を自分の手で崩す事は許されない。

 目指すのは全員での攻略。その為の役割分担だ。

 するどく、高い威力いりょく……。

 炎は表面を焼くだけで論外。

 アイスアローで巨大な氷を作り出す事は……いや、駄目だ。

 敵の頭上に、それこそ相手の体積を上回うわまわり押し潰すほどの巨大な氷を生成し、回避不可能で鋭利えいりな部分が突き刺さる形状でなければならない。そんな都合のいい氷塊を作り出すのは不可能に近い。

 ショックアローも相手を感電させて動きを止めるのみ。足止めにはなるが、抜本的解決には――、


「待てよ。電気……そうだ!」


 そう、ショックアローは帯電の矢だ。一つ一つの力は弱くても、数百の束となれば。

 思いついた瞬間、脚は大塊獣の頭頂部に向けて動いていた。

 鋭く、素早く、敵を貫く。そして、申し分のない威力を持った一撃。


「あの腐った頭に、かみなりの一撃を喰らわせてやる!」

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