第137話 stand-alone ②
「結局、生存者は見つけられなかったな……」
あと3秒で『
鼻を
思い返せば、この起死回生の時の中でおよそ20日、一度も風呂に入っていない。
青嵐を攻略した後、川にでも浸かりに行った方がいいかもしれない。
恭平が陣取っているのは東京タワーの
恭平のスキルは爆発が大きいので、極端に近い場所では味方を巻き込む恐れがある。
レベルとスキルの補正で打撃の攻撃力も上がっているが、倒すまでに時間が掛かり過ぎる。
特に軍曹は無数の雑魚を掴んだ状態でタワーに突進して来る。
打撃では上部の雑魚まで処理しきれない。
「さぁ、上手く行くといいな」
『全生存者にお知らせします。これより、青嵐が開始します。それでは、良い終末を』
青嵐の開始と同時に、複数のビルの屋上で大爆発が起こった。
それはともかく、恭平はどうやってその場に居ずにして屋上の爆破を成し遂げたのか。
恭平は空のペットボトルを床に置き、そこに逆さにしたスペシャルショットの矢を刺す。
一輪の花のように。
爆発は矢の先端が何かに接触しなければ起こらない。
矢の先端に何も触れない状態で保持できれば、簡易のブービートラップとして機能する。
ビルの屋上に短時間で登れなくとも、20日もの時間があれば
この方法を思いついたのは、起死回生を継続する為に敵の一部を
かなりの長期間、起死回生を維持する為に、出来る限り延長工程は簡易かつ回数を少なくすることで、安全性を確保する必要がある。
結局、延長方法に関しては従来の方法がベストという結論に至ったが、その過程でトラップを考案出来た。
携帯のマップをこまめに確認しつつ、敵の殲滅を開始する。
今回はボス級が
現在把握できている敵で注意すべきは、
また、爆発と同時に鋭い爪が爆発四散するので、味方が近くにいるフットタウン周辺での爆破は避けたい。
必然的に矢の物量で殺すしかないが、当然時間を大幅にロスする事になる。
好き放題歩き回れた春嵐と違い、青嵐は出来る限り東京タワーに張り付いている必要がある。
それでも、対処法が分かっているが故に最初の2時間、現実でおよそ7分間は
最速の集塊百足が12匹と、赤玉、案山子を身に纏った軍曹を22匹。
「移動要塞かよ」
とりわけ、
木偶自体の背が高い為、軍曹の本体は
恭平が通常の時間で行動していたならば、薄気味悪い多足歩行を見る事が出来ただろう。
それを五本のスペシャルショットで念入りに処理したのが2体。
未だ、空からの襲撃は無い。
初動で出現する敵の爆殺は上手く行ったようだが、まだ安心はできない。
第二波、第三派を警戒する。
空を飛ぶ敵は白く平たい
動きこそ遅いが、人が絡み合ったような赤く不気味な形状の
滑空するだけが取り柄の綿菓子と違い、奴らは自力で
必ず、奴らをしこたま抱えた軍曹が現れる筈。
その恭平の読みに答えるように、ほぼ全ての方位から、無数の赤黒く巨大な浮遊物体が出現する。
初めからビルの影に隠れていたのか……考えるだけ無駄だ。
その見た目は、まるで空飛ぶ
「悪ふざけが過ぎる」
空飛ぶ葡萄に携帯端末を向け、表示された名前を見て思わずそう呟いた。
『気球/軍曹:
動きはさほど早くない。だが、敵の位置が問題だ。
浮遊するブドウは地上60メートル付近、建物で15階に相当する位置に居る。
ビルの近くに居る敵は上階から狙い撃てる。
だが、湾岸方面や公園方向の高い建物が比較的少ないエリアから進行して来る酒池肉林は恭平では対処できない。
携帯端末を操作して、全体チャットに書き込む。
『公園の方向から、軍曹の
◆◆◆
「やっと私達が活躍する時が来たみたいね。事前の打ち合わせ通り、狙撃班は昇降階段中腹に! 狙撃の死角になるようならフットタウン屋上まで移動。護衛担当の6名は速やかに移動開始、残りは1階、2階の防衛を継続して!」
メールの文面を即座に読み取ったリオンが声を張り上げる。
素人ばかりの集団の為、それに答える動きは決して素早いとは言い難いが、一丸となって敵を食い止めようという意思は揺るがない。
狙撃を担当するのは展望台カフェの店員、猟銃持ちの
真世の武器はロングバレルのスナイパーライフルで、通常時はかさばるので携帯の状態にしている。背はやや低く、染めた事の無い黒髪は少し長めで童顔の為、中性的な印象を受ける。
「やれますかね?」
「やるしかないだろ」
共とも階段の中腹で待機していた二人が、合図を見て指定のポイントまで階段を駆け下りる。
「
「ガスガンなら何度か。実銃を撃つのは初めてです」
「実銃、と言っていいのか怪しいがな。敵が見えた。まだ遠いな」
果たして、ピンポン玉ほどの大きさの赤黒い物体が4つ、タワーめがけて飛んできているのが分かった。他の方角では、空中で盛大な爆発が起こっている。
恭平が処理できる範囲の酒池肉林を吹き飛ばしている音だ。
「敵が身に纏った赤い球体を一定数倒すと、浮力が減って落ちる……らしい」
「本当にそうなんですかね。信じるしかないですけど」
真世が端末をスナイパーライフルに変化させ、地面にしっかりと固定。スコープを
「この距離からでも届くのか?」
「一応、試し撃ちをした感じだと届くと思います。ただ、威力は期待できないですけどね」
撃ちますよ、と警告をしてから、真世が引き金を絞る。
ズン、と腹に響く狙撃音と共に発射された弾丸は真っすぐに飛び、酒池肉林の一体の下部に突き刺さった。
「少し弾が下がったな」
敵に目立った変化はない。実際には、半殺しの効果でかなりのダメージを受けているのだが、二人にはそれを確認する余裕は無かった。
続けて2発、3発と撃ち込むも、敵は未だに健在だ。
「スキルは使わないのか?」
「え? ああ、忘れてました」
真世は慣れない手つきで弾が格納されている辺りに手をかざす。
すると、銃身が青白く光り輝いた。
再び、射撃音が響く。一直線に空を割く弾丸が、酒池肉林に着弾する。
――と、同時に着弾箇所から白い霜が広がって行く。
スキル『アイスバーン』。着弾した対象の熱を奪い、凍結させる弾丸だ。
接近される事が致命傷となるスナイパーの為にある様な足止めスキルである。
そして、このスキルは空を飛ぶ敵にも有効だ。
凍り付いた前方部分は浮力を失ったばかりでなく、凍り付いた事で重みが増加。
内部の軍曹も腕ごと凍結させられた為に気球の死骸を切り離す事が出来ず、結果前方から沈み込む様に地面に向かって垂直に落下。
その高度が15メートルを切った瞬間、大爆発が起こった。
「何度見ても、怖いっすね」
恭平が射程に入った瞬間にすかさず爆破したのは明らかだった。
「いいから、残りもさっさと落とすぞ」
「分かってますよ」
アイスバーンは現状の彼のレベルで、3発まで連続発射できる。
二匹目に慎重に狙いをつけ、発射。弾は吸い込まれるように酒池肉林の胴体に着弾した。
この長距離の射撃を成功させているのは、彼の実力だけでなく、補正スキルが働いているからだ。
「あれ、落ちないな……」
1匹目を1発で墜落させられたのは運がよかったのか、はたまた敵がこの短時間で対策をしたのか。結論は定かではないが、一撃で沈める事は出来なかった事実は確かだ。
「
「分かってます」
更にもう一発を叩き込むと、今度こそ2匹目の酒池肉林が地上に落ちて行く。
「次、使えるまでに4分です」
「他のスキルは?」
「使え無さそう」
大慈は一旦、猟銃を携帯端末に戻し、『次のスキル使用は4分後』と入力して送信する。
「それ必要ですか?」
「俺達にとっての4分は、彼にとっての400分。つまり6時間以上だ。その時間を、ただ指を
彼の説明の答え合わせをするように、別の場所で爆発が起こる。
恭平が一旦、この場を離れた証拠だ。
「例え、同じ時間を過ごしていなくても、俺達は皆チームだ。協力して乗り切らないと」
「
「……こう見えて、まだ37だ」
「えぇっ!?」
「いいから、早く次を狙え。スキル無しでも打ち続けろ!」
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