第135話 温故知新 ⑨
「初めまして、
「えっ、ええ」
600段の階段を
「ここには何人集まってます?」
「確か、26人ぐらいかな」
「ありがとうございます。皆さんを集めて貰えますか。この状況を打開する方法を説明します」
「……説明しますって言われてもね。そもそも、貴方達だって逃げて来たんでしょ?」
「戦う為に来たんです。話を聞くだけでも、お願いします」
リオンはそれでも数秒間悩んだ後、
「でも、敵が来るかも――」
「下の敵はほぼ全て倒しました。大丈夫です」
渋々頷いて奥の人々を集めに行った。
「……何とか上手く行きそうだな?」
「何度か試行錯誤してますから」
全員が集まった所で状況と経緯を説明、そして最後にクリアの方法を伝えた。
当然、反応は十人十色。
恐々とするもの、飲み込めずに無気力な表情を晒す者、泣き出す者。
恭平にとっては、見慣れた光景だ。
その中で、厳しい表情で話を聞いていた上瀬リオンが一歩前に出る。
恭平は彼女が歩き出すよりも早く、彼女の方を見ていた。
「話は分かった。けど――」
「実力が見たいって事ですよね。分かってます」
全てを先回りして話す為、リオンの表情が苦虫を噛み潰したように変化する。
だが、それで彼女が距離を取ろうとしない事も知っている。
大きな犠牲を払って
本来は皆にも討伐スキルを得て貰いたかったが仕方ない。
経験値だけならば、ラッシュが始まれば嫌というほど稼げる。
「……そういえば」
恭平は今更のように、自身の携帯端末で灯籠撃破のスキルを確認する。
前回倒した際は、灯籠から変化した
灯籠撃破で取得出来たのは『聖なる鈴の音』。このスキルを所持している限り、敵の状態異常の影響を受けない。
つまり、このスキルを持っていれば、赤玉の効果を受けないで済む。
より強力な異常効果を持つ敵が出てきたとしても、問題なく立ち回れるとなれば大きなアドバンテージとなる。
一瞬、灯籠の鈴も無効化出来るのではないかと思ったが、あれは単に
それはさておき、上瀬リオンを連れてタワーの下に降りて周囲の敵を一掃、出て来るのは
やはり時間が早い為か、空中を浮遊する
「これぐらいで、いいですか?」
「信じるしかなさそうね」
「ありがとうございます」
切りの良い所で討伐を終了し、タワーへと戻る。
そこで改めて、今回の作戦を説明した。最大限、効果的に進めるための方法。
聞いた皆の表情が困惑へと変わるのが分かった。
「勿論、イレギュラーな状況になる事は十分考えられます。皆さんは、定期的に携帯で自身のレベルとスキル、連絡機能でメッセージを確認するようにしてください。有効そうなスキルを取得した場合は試用せず、先に報告を。特に、レベル解放で追加される赤文字のスキルはゲーム攻略の大きな助けになる場合もあれば、これから始まるラッシュのように使った瞬間に別の事象のトリガーになる場合があるので、常時発動するパッシブスキルは例外として、絶対に使わないように」
「達成したとして、それで確実に助かるって保証は?」
質問してきたのは、前回の
「保証はないです。けど、端末でアナウンスが出て、このラッシュの為だけに敵も1から再配置される。通常では攻略不能な量の敵だから、ホーリーボムには必ず全ての敵を倒す効果はあります」
その為には24時間、4つのラッシュを乗り切る必要がある。『
「前回は二つ目の『青嵐』で
「ちょっと待って。青嵐で全滅したのにどうしてわかるの?」
「そのラッシュの敵を全滅させなくても、時間で次のラッシュは始まります」
「つまり、前回は青嵐と秋嵐が重なって発生したって事?」
「そういう事です」
実際、恭平は瀕死で木に引っかかっていただけだが、それを説明する必要は無いと判断した。
「他に質問は?」
時間は惜しいが、ここで中途半端な問答で済ませると後々の連携に係わる。
各々がどれだけ戦力として活躍できるかは未知数だが、そのパフォーマンスを始まる前から下げる訳にはいかない。
結果、前回より人数が増えた事もあり問答に30分を要した。代わりに、タワー各所のラッシュ対策は万全かつスムーズに進行した。
前回と変わった点は二つ。
まず、東京タワー
ボス級に対してどれほどの効果が見込めるか分からないが、簡単に突破するのは困難になっただろう。
「大方の準備は整った。ホーリーボム起動は午後4時。あと20分、皆、所定の位置に移動を!」
前回より30分早いスタート。
あまり時間は稼げなかったが、その30分が
「クリアできるよね?」
背中にかけられた声に振り返る。そこには、不安そうな表情の
恭平は深く頷く。この時の為、色々と
「大丈夫。その為に力を貸して欲しい」
「うん。ううん、私も見たの……」
「見た?」
「
衝撃が背中に走る。
「それって、思い出したって事!?」
「そうじゃなくて、鍬野君の武器を拾った時に、記憶みたいなのが流れ込んできて」
「……そういう事か」
胸の高鳴りが、急激に萎んでいくのが分かった。
「ねぇ、あんな沢山の敵に本当に勝てるの?」
「勝てる。その為に覚悟を決めて来た」
「けど――」
「誰よりも生きて、失敗して死んで、繰り返して、その度に生存者が減って行った。その落とし前は自分でつける」
「その人たちが死んだのは鍬野君のせいじゃないよ」
「そうかもしれない。けど、自分が納得できないんだ。ホーリーボムを起爆してクリアした後、モヤモヤするのは嫌だ」
恭平は頬に笑みを作る。正しく笑えているか、分からない。
「自分一人の力でクリアできるとは思ってない。その時は、浜辺さん達の力を借りたい。折角だから、浜辺さんには伝えておく。始まったら、メールの文面でしかやり取りできないし」
「うん……」
話はたった3分で済んだ。彼女が持ち場に向かう背を見送った後、恭平はフットタウン1階のエントランスから日の当たる外の景色を見る。
もうすぐ、この先は敵の死体でいっぱいになる。
「いよいよ、ですね」
開始まで、あと5分。
「春日さん、大丈夫?」
「正直、怖くて震えてます。でも、私は鍬野さんを信じます」
「ありがとう」
恭平はゆっくりと外に向かって歩き出す。
この先は長く苦しい
決意を固めた恭平の表情に、もう笑みは無かった。
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