第131話 温故知新 ⑤
「この距離ならまだ向かってこない。最初はしっかり狙って。
「手前って言っても、撃った時の距離とかわかんないぞ」
「それなら、一発撃ってみてから、調整しましょう」
ミドルレンジのグレネードランチャーは、近距離ならともかく25メートルも離れれば直線的に敵を狙うのではなく、銃口を上方向に向けて山なりの
当然、どの角度ならどこに届くのかという部分は経験で補完するしかないのだ。
「なあ、やっぱり量が多過ぎないか?」
「……確かに」
「分かった。まずは自分がある程度、数を減らす」
「まっ、普通そうだよな」
八木がにっ、と笑う。
狙うのは
恭平は狙いを定め、3度引き金を引いた。残りの3発は、この爆発につられて死角から飛び出して来る奴らの為に取っておく。
3連続の凄まじい爆音と、化け物達の絶叫が周囲に木霊する。
「もうすぐ敵が飛び出して――」
シャン、シャン、シャン。
「……は?」
煙の中から飛び出して来る赤玉や
背筋の凍るような鈴の音。まだ近くは無い。だが、確実に奴が居る。
「どうして」
「
事情を知らない八木と大山は飛び出してきた敵の対処を始めている。
「鍬野さん!」
「あっ、うん。皆、撃ちながら後退! はやく!」
袖を掴まれて
「おいおい、急にどういうことだ?」
「本当ならここに居ない筈のボス級が直ぐに来る。それも、特別ヤバい奴だ。出来るだけ距離を取って、雑魚を先に片付ける」
「お前の爆発する矢で一気に
「
「お、おう。わかった。なんだよそのチートな奴。どうやって倒すんだ」
恭平は更に1本、矢を放って敵の先頭集団を爆殺する。
シャン、シャン、シャン。
その爆風を長すぎる腕で
約3メートルの高身長でナマケモノに近いフォルム。
頭部は無く、両手の腕は片方だけで4メートルと異様に長い。
手に指は無く、カラフルなカタツムリの目のようなものが五本生えていて、別々の方向にぐねぐねと動いている。
脚は短足だが人2人分ほどのサイズがあり、やはりこちらにも指が無い。
丸太を切り出したような平坦な足を、地面を踏みしめるというよりも杭を打ち込む様にめり込ませて進んで来る。
体にびっしりと生えた体毛は黄色で、これも指のように一つ一つがうねうねと動いていた。
そして、背中に無数に刺さった枝と、先端で鈴の音を響かせる無数の小動物の
忘れたくても忘れられない姿。そして、一同が
「あれが……
「本体はそんなに俊敏じゃない。けど、背中に刺さった無数の髑髏付きの木の枝を使って、かなり強い化け物を生み出してくる。それを使い切らせるか、地道に攻撃するか」
「東京タワーが目の前だって言うのに、こんな所で足踏みか」
「気を抜かないように。鈴の衝撃波に気を付けて。一瞬体が
シャンッ!
「……こう、なる」
恭平は
かなり無理な体制だった為、腕が痺れたが直ぐに反対の手に持ち変えて、灯籠の効果範囲外を狙って矢を射出する。
撃てるスペシャルショットは、残り一発。
爆風で複数の案山子と赤玉が吹き飛んだが、当然直撃ルートではないので直ぐに体勢を立て直して向かってくる。
この人数かつ、敵のラッシュ途中に奴が来たのは最悪だ。灯籠は早くも手近な案山子を長い腕で掴み、背中の枝の一つを脳天に突き刺す所だった。
「
「アイツのライフは……きゅ、9,975!?」
前回は奇跡的に八木の跳弾がヒットしたおかげでライフを半分削れたが、今回そのリスクを冒す訳にはいかない。いつスキルが無効化されるか分からない手前、八木はもう安易に攻撃出来ない。
攻撃可能なのは恭平と、これが戦闘初経験の八木だけ。
建物の中に避難するか? いや、ダメだ。
すぐに上階に雪崩れ込まれて、自分が初めて死んだ時の二の舞になる。
この状況で持久戦は無理だ。アイツを最初に倒すしかない。
「……やるしかない」
「えっ?」
「春日さん、合図したらフラッシュボムを俺に向かって投げて」
こういう状況になる事を、シュミレーションしなかったわけではない。ホーリーボム起動後のあらゆるラッシュの可能性の中の一つ、それが繰り上がったに過ぎない。
今までは状況が起こってから、対応していた。死んでもやり直せるので、それでよかった。
だが今回は違う。そんなイレギュラーが起こっても立ち止まれない。失敗は許されない。
だからこそ、あらゆる可能性――敵の種類、配置に至るまで最悪の状況を考えうる限り想定して、その対処を恭平なりに考えてきた。
本当は、最初からそうすべきだったのだ。そうすれば、あの時――全滅などしなかった。
「大山さんは兎に角、後退しながら自分の身を守ってください」
「おい、君はどうす――」
聞き終わる前に駆け出す。方向は、眼前の灯籠。奴には顔が無いので、顔で威圧されずに済む。代わりに、奴の背中の
さぁ、いつ
距離およそ30メートル。飛びかかって来る赤玉や案山子を避けながらボウガンで殴りつけて倒し、ジグザグに前へ。
――来るッ!
シャンッ!
音が鳴る直前、強く地面を蹴って体を半回転、背中をエビのように丸めて灯籠の方へと投げだす。空中で衝撃波を受け、体が硬直する。
だが、宙に浮いた体は前進を続ける。そのまま地面に倒れ込む直前に硬直が解除。
地面を転がった勢いそのままで体を跳ね上げ、勢いを殺さぬままに灯籠へと肉薄する。
灯籠が連続で衝撃波を使えない事は見当がついていた。
恭平の導いた使用間隔は3秒。1秒は動きを止められるので、実質2秒に1度撃ってくる事になる。
残り10メートル。
シャンッ!
再び繰り出される音撃。それを同じようにしてやり過ごす。
灯籠は長い腕をカニのように曲げて恭平を迎撃する体制に入っている。
ここからは
恭平の読みが勝つか、灯籠が予想を超えて来るか。
腕を曲げてガードの姿勢に入ったという事は、やはりこの腕は攻撃に適したものではないらしい。
だが、あの奇妙な芋虫のような指。あれは恐らく――。
ギュリュリュリュリュリュ。
10本の指が触手のように伸び、正面のあらゆる方向から恭平を襲う。
恭平は最初に到達する1本をボウガンで撫でるように叩きながら迷わず後方へと飛んだ。
「これで……」
シャンッ!
今の打撃では、ほぼダメージは通らなかっただろうが、直接攻撃故にスキル『
3、
受け身が取れないまま地面に背中を強打。息が詰まる。
だが追撃して来る触手を避ける為、地面をゴロゴロと転がりながら、
2、……
敵の首めがけて引き金を絞った。
シャンッ!
着弾とほぼ同時に次の衝撃波。恭平の放った矢は無効化された――かに思えた。
首に矢を突き立てられた灯籠の動きが止まり、指の触手が力なく垂れ下がる。
遅れて、首から大量の赤い血が噴水のように噴き出した。
コンマ数秒早く到達した矢が、スキルが解除されるまでの
遅くても、早くてもダメな
余裕を持って爆発すれば、恭平も大爆発に巻き込まれる。巻き込まれずとも、起死回生が発動して計画が破たんしただろう。
遅すぎれば勿論、灯籠を倒す事は出来なかった。
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