第128話 温故知新 ②

「本当に秒殺なんだな。俺達も――」

「レベルが上がれば」

「本当に、何を言うか分かってんだなぁ」

「色々知ってますよ。教えて貰ったんで。上瀬かみせリオンのファンだとか」

「そんなことまで喋ってるのか」

「今から会いに行くので」

「マジでっ!?」


 案山子かかし木偶でくを倒しながら順調に前へ。

 復活した生存者の影響だろうか。恭平きょうへいの知っている敵の配置と若干違っている。


「ねっ、反応がある。これって生存者?」


 美和子みわこに言われて携帯を確認すると、確かに二つ隣の通りに反応があった。


「少し寄り道しよう。仲間は多いほどいい」


 そうして向かった先には、一本の電柱を取り囲む7体の案山子の姿。

 奴らの見上げる先には、30代の男性が震えながら電柱にしがみ付いている。


「今助けます!」


 言うが早いか、ファイアアローとアイスアローを駆使して7体を瞬時に一掃する。


「降りれます?」

「あ、ああ。君達はなんだ?」

「この状況を打開する為に、チームを組んで東京タワーに向かってます」

「そこに行けば安全なのか? ここより安全か?」

「その内、空飛ぶ化け物や、その位置まで軽々ジャンプする奴が来ます。今の内に降りた方がいい。この状況を乗り切るのに、一人でも多くの力が必要です。是非、力を貸してください」

「……ここより安全なんだな?」


 彼は酷く怯えた表情で何度も念を押して来る。当然の反応だろう。

 今は戦力として期待は薄いが、恭平のパワーレベリングで力を付ければ少しは気持ちが変わってくるかもしれない。

 というより、嫌でも戦わなければならない状況に直面する事になる。

 彼の名前は大山おおやま伸晃のぶてる。近くの酒屋で働いているらしい。


「変な噂に感化されて、古い携帯を引っ張り出したらこのざまだ」

「いえ、そうしてくれて助かりました」

「……?」

「もしも、古い携帯を起動してなかったら、開始と同時に化け物になっていたかも」

「開始? 例のカウントダウンの事か?」


 どうやら彼はアプリの中身にはあまり興味が無かった側らしい。

 再び東京タワーに向かって歩き出しつつ、状況を要約して説明する。


「信じたくないが、この状況を見せられると。参ったなぁ」

「とにかく、はぐれないようにしっかりついてきてください」


 新たなメンバーも加わり、いよいよ希望が見えて来た矢先――。


浜辺はまべさん、この辺に生存者の反応は?」

「無いみたいだけど、……どうかしたの?」


 言葉を突いて出たのは困惑。

 恭平は答えることも出来ず、もぬけのからの駐車場を見上げた。

 本当なら、ここに坂神優さかがみ ゆう避難ひなんしていて、案山子に囲まれている筈だった。だが、彼女の姿は無い。


 もしかして、脱落した?


 最悪の考えを頭から振り払い、行動パターンが変わっただけだろうと半ば願望でしかない推測を立てた。

 あれこれ考えても彼女が居ない事には変わりない。

 チームが全滅した後、彼女の行動が変わったのか、それとも恭平の博打の影響で変わったのかは分からない。

 単体の化け物に対して絶大な威力を誇る銀の弾丸。それを失ったのは大きな損失だ。

 しかし、悲観に暮れて立ち止まっている時間は無い。


「行こう。この先の大通りには敵が沢山いる。そこに居るボス級の敵を倒すと、一定時間で周囲に霧が出て敵の姿形すがたかたちが変わる」

「強くなるって事か?」

「その通り。ただし、その霧の元凶のボスを倒せば霧が晴れる。自分がそれを一人で倒す。それまではみんな、隣の通りにある建物で待機。ロックは携帯を扉に翳せば解除されるから」

「一人で――」

「今までずっと、一人で倒してきた。だから、大丈夫」


 恭平は皆を心配させないよう、精一杯真剣な表情を作ってみせた。

 本当は、絶対なんてものはないのに。


「まずは大通りの敵を一掃する。念の為、後方に注意しておいて。案山子ぐらいなら皆で撃てば倒せる。他の敵が来たら知らせてくれ」


 恭平の呼びかけに、大きく頷く仲間達。

 それから三十秒後、大通りは複数の爆発に包まれた。

 軍曹を含めた第一陣の一掃には3分とかからなかったが、恭平は素早く大通りに出て、現在の敵の死骸の配置を確認する。


「早く、皆はその通りの先の左から4つ目の建物に!」


 皆がしっかりと逃げ遂せるかの確認をしている暇さえ無い。


 敵の配置が、やっぱり違う……。


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