第125話 闇の中 ⑧

「成功してくれよ」


 午前8時。上瀬かみせリオンの生配信がスタートするのに合わせて家を出る。

 父親を殺すのは1度で十分だ。

 今はまだ、自身の古い携帯の確認はしない。

 放送には開始前から507人が待機していた。

 数多くの似通った生放送が組まれている中でこの数字は中々ではないだろうか。

 このコアなファンの1%でも動けば、5名の戦力が確保できる。

 放送が始まって3分。順調に視聴者は3000人を超える。

 やはり他の大手には敵わないが、視聴者数は多い方だろう。

 画面いっぱいに映し出される携帯画面のインパクトは何度見ても凄まじい。


『私の配信のコメントに直接はやめた方がいいよ。目に入ったら移動しちゃうかも』


 リオンの忠告にしたがって、SNSを起動して書き込みを行う。


『配信みて気付いたんだけど、上瀬リオンはもしかしたら東京タワー前に居るんじゃないか。暇だし、今から行ってみる』


 この方法で最も気を付けなければならないのが、リオンがタワー前から居なくなる事だ。

 彼女はタワーに籠城ろうじょうする事で今まで死亡することなく生存していた。

 しかし、一度ひとたび別の場所に移動してしまえば、簡単に死に至るだろう。

 彼女に信じて貰えさえすればその心配もないのだが。

 こまめに足跡の件数を確認する。10分が経過して、ついた足跡は12。

 彼女の名前を含むワードで検索しないと辿たどり着けない書き込みだ。

 最低限、彼女に興味がある者が恭平きょうへいの発言に目を留めた事になる。

 この書き込みを信じて、誘い出されて来るのが何人いるか。

 当然、発信した情報は全世界に及ぶ。

 そもそも他県在住など、来たくても来れない人ばかりの可能性も大いにある。

 そう考えると、12という数字は少ないだろうか。

 とはいえ、欲を出して派手に動きすぎれば計画がたんする。


「意外とこの方法、キツイな」


 まずはこれで様子を見よう。リカバリー可能な失敗は、失敗の内に入らない。

 それがここ数十回の内に得た教訓きょうくんだ。

 最初の一回目はプラス0の惨敗。だが、ここで欲を出さない。

 慎重しんちょうに検索ワードを追加していく。

 急に足跡が増えた場合は速攻でツイートを消す。

 さいの河原で石を積むような作業を繰り返す事24回。

 最終的に13名を集める事に成功した。

 もう少し回数を重ねれば、人数を増やす事が出来るかもしれないが、欲を出すのは禁物だ。

 これ以上はリオンが移動を決意する。繰り返すたびに彼女から聞き取りを行ったので間違いない。

 また、バンの周囲に人が集まり過ぎると開始時に敵の標的となる。

 近くに灯籠とうろうが湧く手前、これ以上の人だかりは大きな危険が伴う。

 そして最も大きな落とし穴……恭平も完全に失念していたのだが、人が増えれば増えるほど、開始時に誘われてきた人の中で案山子が出現する可能性が増加するのだ。

 流石はリオンの配信を見ている人達というべきか、幸いにも例のアプリを消していない人々が集まった為、開始直後の大混乱には繋がらなかった。

 いな、5度目の呼びかけの際に1名やって来てしまった。

 その時は恭平が近くに隠れていた為、即座に案山子を処理して大事には至らなかったが、代わりに灯籠を含めた敵のヘイトを一身に背負って灯籠の効果範囲から外れるまで街中を全力で逃げる羽目になった。

 投稿内容を調整したことでその人物は以降、タワー下に現れなくなったが、非常にきもの冷える苦い体験だ。

 そんな紆余曲折うよきょくせつを経て集まった13人。

 いや、集めた13人だろうか。

 武器を持たせてスキルも順番に確認した。十分に戦力になり得る。

 レベルアップによるスキルの伸びにも期待が出来そうだ。


 しかし、ここまではあくまで下準備に過ぎない。

 本番はこれから。

 そして、今までの下準備も恭平の旧携帯が使えなければ水の泡になる。

 頭の中で何度も何度もタイムスケジュールをシュミレーションする。

 以降の失敗は、些細ささいな事でも致命傷になり得る。

 これを最後のチャンスという気持ちで挑まなければ、クリアは不可能だろう。


「しっかりしろよ、俺!」


 恭平は気合を入れるべく、両方のほほ両掌りょうてのひらで強くたたいた。

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