第124話 闇の中 ⑦

 直ぐに自殺しようとボウガンをあごの下に構えて、しかし手を止める。

 今、ここで戻って確認するのが本当に最善手だろうか。

 思惑おもわく通り、古い携帯にインストールされていたと仮定して、もう何年も起動していないので、確認の前に充電が必要だ。

 今はまだゲーム開始から1時間ちょっと。渋谷に行くには時間が足りない。

 古い携帯が武器になったとして、その状態で恭平きょうへいが死んだ場合はどうなるだろう。

 今まで通り繰り返すだけならいいが、二台目の方の残機が消費されないとも限らない。

 そもそも、ホーリーボムが復活したとしてまた同じ状況が繰り返されるだけではないだろうか。

 ラッシュ『青嵐せいらん』はボス級の軍曹ぐんそうが数十単位で襲ってくる。分かっていても、あれをしのぐのは難しいだろう。

 それを凌いだ所で次のラッシュ『秋嵐しゅうらん』で霧の軍勢が攻めて来る。

 そしてまだ全貌ぜんぼうの分からない4つ目のラッシュも待ち受けているのだ。

 全滅しなければいい、と言ったところで次にりんが死ぬようなことがあれば、本当に手詰まりになる。

 恭平が携帯を渡せるのは1台のみ。当然、凛だけだ。

 前回よりも悪い条件で始めなければならない。

 方法を考えていないわけではない。だが、それも上手く行くとは限らない。

 出来る限り成功率を上げるために、自分は他に何が出来る?


「考え事?」

「うわっ……」


 集中し過ぎていたらしい。突然後ろからリオンに声をかけられて、恭平は慌てて振り向く。


「ごめんなさい。驚かせちゃって。でも危ないよ。こんな所で考え込むとか」

「そうですね」


 まさか彼女が降りて来るとは思わなかった。


「武器を持って行かれると思いました?」

「そういう訳じゃないけど。何してるのか気になって。一旦、上に戻らない? 私達でよければ相談に乗るよ?」

「わかりました」


 本当はもう少し一人で考えたかったが、彼女が万が一にも死ぬと武器のストックが一つ減る。

 彼女はエレベーターで降りて来たらしい。この状況で意外と行動力があると言うべきか。


「危ないに、どうして降りて来たんですか?」

「色々知ってそうな雰囲気だと思って。かんかな」


 エレベーターで展望台に向かいながら会話を交わす。


「一番は、私を見た時の反応が普通と違ったから」

「普通って?」

「大体、リアクションは3種類。『まったく知りません、初対面です』って反応が一つ。『ユーチューブ見て知ってます』って反応が一つ。もう一つは、『ファンです』って反応」

「2つ目と3つ目は一緒じゃ?」

「私の中では明確に違うの。とにかく、君はどっちでもなかった。初対面じゃない反応だけど、私に興味があるわけじゃない。違う?」

「あってます」

「何処であったっけ。私、記憶力はいい方だと思ってたんだけど」

「ここですよ。一緒に戦いました」

「?」


 疑問符を頭に浮かべるリオンに、恭平は状況をつまんで話した。

 どのみち、方針が固まれば今回は確実にリセットする。

 説明は最小限にとどめたが、それでもエレベーターが先に展望台に着いた。


「なるほどね。信じがたいけど」

「テストでもしますか?」

「それ、前回の私がやったの?」


 頷くと、彼女は苦笑いを浮かべた。


「それで、勝算はあるの? 全滅したのよね、ここで」

「秘策は考えてます」

「ふうん。いいね。でも万全じゃない?」

「この馬鹿げたゲームは想像を超えた攻略不能の理不尽を押し付けて来るんです」


 恭平の計画は全て自分自身の働きにかかっている。今までも、そしてこれからも。

 ゆえに前回、致命的な失敗が起こった。


「出来ればもっと沢山の仲間がいれば……でも、もう生き残ってる人も少ないし」

「でも、私の武器があれば復活できるんでしょ?」

「その為には東京タワーに人を集めないと。でも、ゲーム開始前に呼びかけても信じて貰えないし」

「そうだね。例えば生放送中に私が呼びかけてみたら多少は集まるかな?」

「時間的にどうだろう。そもそも、まずリオンさんに信じて貰わないと」

「生配信中だもんね。確かに難しいかな」

「例えば、どんな事言われたら信じます?」

「うーん。意外と私、オカルト的なの信じないんだよね。申し訳ないけど」


 本当に申し訳なさそうに笑うリオン。彼女に配信の中で集合を呼びかけて貰うのは難しいだろう。


「……リオンさんも、始まる前はこれが新作ゲームだと思ってたんですよね?」

「ん、そうね。期待込みで生配信してたところもあるし」

「例えば、先行リーク情報があるとか、そういうアプローチの仕方はどうかな?」

「案外ありかも。うん、……人数が集まってると有利になるとかそういう事でしょ。それを信じるだけの情報があれば」

「嘘と本当を織り交ぜて、信じて貰える虚構きょこう……」

「一緒に考えよう。それで私達も助かるなら」


 考える事、およそ15分。考える頭が増えたものの、しかし決定的な妙案は出てこない。


「何種類か、パターンを試してみるしかないんじゃない?」

「失敗を確認して、また戻るまでに2時間……」


 今まで過ごしてきた時間に比べれば微々たるものだが、出来るだけ勝率の高い方法で行きたいのが本音だ。


「……そもそも、私が信じる必要ないんじゃない?」

「え?」

「私が発信するより影響力は下がるだろうけど、君が私のファンを偽装ぎそうして『上瀬かみせリオンが東京タワー前に居るのが特定できたから、今から会いに行く』とか、書き込んでみたらどうかな」

「それに何の意味が?」

「私は場所をせて生配信してたわけ。変に人が集まっても嫌だし。それが、ファンの1人のリークで場所が特定されたとなったら、今日お休みだった人とか、ここまで来るかもしれない。オフ会とか基本しないから、何人集まるか分からないけど」

「試してみる価値はある、そうですよね」


 リオンの案に大きく頷く。これなら、試す価値がある。

 一人でも二人でも、ゲーム開始前に増えるなら成功だ。


「それじゃ、次の私達によろしくね」


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