第123話 闇の中 ⑥

 およそ50分後。

 メールが届いた瞬間に起死回生きしかいせいを発動したことで、タイムロス無しに東京タワーまで辿たどり着く。

 幸い、灯籠とうろうの姿は無くなっていたので起死回生を解かずに外階段をあがることが出来た。

 そして、タワーの展望台には確かに上瀬かみせリオンがおり、共に戦った他の生存者の姿があった。

 唯一見当たらないのは、後で逃げ込んできたというカップルだけだ。


「君も逃げて来たの?」


 リオンの戸惑いの込められた言葉に、恭平きょうへいは「いいえ」と首を振る。


「どうして武器を持ってるんですか?」

「武器? これの事?」

「はい」

「君もそうだと思うけど、カウントダウンが終わったと思ったら急に携帯のいくつかが銃になったんだよね」

「幾つか……そうか」


 ようやく合点する。彼女は、およそ68台もの携帯を所持している。

 げんに、前回も他の人に配るほどの武器のストックを抱えていた。

 恭平のように記憶を引き継ぐことは出来ずとも、武器がある限り彼女は死んでも残りの携帯によって生存者であり続けられる。完全な盲点もうてんだった。


「残りの武器を見せて貰ってもいいですか?」

「ええ」


 彼女に先導され、残りの武器の場所に案内して貰う。


「これで全部ですか?」

「何とか車から持ち出せたぶんだけ。後はまだ車の中に。それがどうかした?」

「とても重要な事なんです」


 武器の数を数えると、本数は全部で20ちょう

 これだけでも十分多いが、車の方も確認する必要がある。


「もう、皆さんに武器は配った後ですか?」

「ええ」

「本数は?」

「ここに居る人数分だから……12かな」

「リオンさんの持っているのと合わせて33か。下の数を確認しに行きます。車のカギは開いてますか?」

「ちょっと、下は危険だって! 変な化け物がいっぱいいるし」

「大丈夫です。自分は結構強いんで。ここに来るまでに100体以上は倒してます。嘘だと思うならレベルを確認してください」


 そう言って彼女にアプリの簡単な操作方法を伝えてから、下り階段に向かう。

 彼女は前回の戦いまで東京タワーの籠城を成功させて死ななかった。

 恭平の予想が正しければ、下には少なくとも10丁を超える銃が残されている筈だ。

 結果的には、予想をはるかに超える28丁もの銃がバンの中に残されていた。

 元々、武器を持っていた人達が籠城していたので、今回皆に配った以外の消費はほぼなかったという事だろう。

 61丁。合計でこれならまだ、全然戦える。


 前回の浜辺美和子はまべ みわこの例から、渡された武器は其々の得意武器へと変化する事が分かっている。

 渋谷しぶや近辺に居る皆も、ここまで来ることが出来ればまた武器を取って戦える。

 勿論、作戦のかなめとなる春日凛かすが りん八木進一やぎ しんいち坂上優さかがみ ゆうも……。

 優の名前を思い出した瞬間、はっとする。優は元々二丁持ちで携帯も二台。彼女だけは単独で生き残っている可能性がある。

 銃が一丁になったところで、一時間程度なら、あの安置でやり過ごしているだろう。

 ただ、今から確認にいくと時間が掛かるので、今は断腸だんちょうの思いで作戦をる事を優先する。

 武器を渡せば復活できるとはいえ、何も状況を知らない凛達をどうやって東京タワーまで先導するか。

 加えて、今まではタワーまでの道のりでボス等の敵を倒し、凛のレベルを上げてホーリーボムが使用できる状態にしていた。

 東京タワーまで連れて来られたとして、彼女が武器を手に入れてからレベルを上げなければならない。


「それだと、時間が掛かり過ぎる」


 時間が掛かればかかるほど、比例して敵は強く、種類も増えていく。

 スタートダッシュが失敗する事によるタイムロスは決して無視できない。

 恭平は腕組みをして知恵を絞る。

 スタート時に東京タワーでリオンから人数分の武器を受け取って、起死回生を使って――いや駄目だ。起死回生はホーリーボム起動に備えて温存しなければならない。

 どうしても使わないといけない場面が来るのならば、起死回生の発動状態を最終局面さいしゅうきょくめんまでキープする他にない。

 そうなると、チーム間の意思疎通いしそつうが難しくなる。

 通常の会話は成立しないので、メールを介したやり取りになるが、ここで起死回生を使うと、そもそものアプリの使用方法のレクチャーが出来ていない相手はメールを見る事が出来ない。

 それを教える為に起死回生を解除しなければならないので、この案は無理だ。


「ゲーム開始前に伝えて……は、信じて貰えないだろうから無理だし」


 どう考えても、ここから武器を持って行く案が成立しない。

 こんなにも武器は沢山あるのに、凛達に渡すことが出来ないなんて。


「渋谷の近くで武器があればいいのに」


 とはいえ、携帯ショップ等はダメだ。

 武器になるのは、初期起動済みで例のアプリを一度でも開いたものに限られる。

 現在店頭に並んでいる最新型は騒動以降に制作されている物がほとんどの為、望みは薄い。

 中古ショップも考えたが、これも売買契約後に本体を初期化している筈なので当てには出来ないだろう。


「中古……古い携帯。あっ」


 そこで恭平は思い出す。

 自分自身が昔使っていた携帯は引き取りに出さず、勉強机の引き出しの中に入れっぱなしになっている事に。

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