chapter 4

第89話 ensemble ①

「よくここまで登って来たね?」


 地獄の階段を攻略し息も絶え絶えの5人を、くだん上瀬かみせリオンが出迎でむかえた。

 流石に顔出しで動画に出ているだけの事はあり美人だ。年齢は自称じしょう23歳。

 黒のタンクトップに迷彩柄めいさいがらジャケット、迷彩ズボン、何処の物か分からないエンブレムの入った迷彩キャップをかぶっている。

 ネットのアイドルのイメージとはかけ離れた出で立ちだ。

 どこからどう見てもサバゲープレイヤーである。

 しかしメイクだけは完璧なので、少しちぐはぐな印象を受けた。


「エレベーター、……使え、なかった、ん、ですけどっ!」


 これだけは言いたかったのだろう。

 フットタウンの屋上から600段強を登りきり、汗だくのゆうが吐き捨てる。


「ごめんなさい。気持ち悪いのが上がってこないかと思ってさ。私達も必死で」


 そう、彼女〝達〟だ。

 展望台のフロアには、驚くことに15人もの生存者がいた。


随分ずいぶんと、生き残ってますね」

「やっぱり、下はひどい状況? ずっと見てたけど、ほとんど人が通らないから」

「いつからここに?」

「私達は、東京タワーを背景にワゴン車からカウントダウンを配信してたんだけど――」


 彼女の動画スタッフらしき三人の女性が恐る恐るの様子で近づいてくる。

 リオンいわく、タワーの中での生放送は許可が下りなかったので、仕方なく車で配信を行っていた所、最初のパニックには巻き込まれず、比較的冷静に対処できたのだという。


「その後、建物から人が逃げ出してきて、気持ち悪いのが人を襲ってて」

「倒したんですか?」

「サバゲーの経験が、こんな形で役に立つとは思わなかったけどね」


 彼女は冷静に東京タワーの展望台に逃げる事を仲間に告げ、ありったけの武器を持って正面入り口を突破、エレベーターに駆け込んでこの展望台に上がって来たらしい。


「ここに敵は居なかったんですか?」

「そうみたい」

「……どうしてだろう。建物の中だからかな」

「下の建物には居たよ。足止めが精いっぱいだったけど」

「人がいる所には、はずなんだけどな」

「それなら、ほぼ人がいなかったからじゃない?」

「えっ?」

「今日のメインデッキ解放時間、10時だから」


 確かに、それなら敵が湧かないのも納得できる。

 実際、タワーのスタッフらしき服装の男性が2人、女性が4人、生存者の中に見受けられた。

 彼らを含めた生き残りの面々は、一様に不安げな表情で恭平きょうへい達、そして下の様子を警戒している。

 恭平がそうして生存者を見回している間に、息切れから復活した八木やぎがリオンの前に進み出た。


「動画いつも見てます」

「ぅ、うん。ありがとう。こんな状態じゃなかったら素直に喜べたんだけど」

「リオンさんの為に、ここまで来たと言っても過言かごんじゃない」


 この状況下で舞い上がる八木に、美和子みわこ達女性陣から冷たい視線が送られる。


「抜け目ないわね」


 優が棘のある言葉を背中に浴びせるも、当の本人はお構いなしで、彼女ときつく握手を交わす事にご執心しゅうしんだった。

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