第87話 希望の丘 ⑥

 建物へのゲートは解放されていて、見える範囲の敵は案山子かかしが2体だけだった。

 それを危うげなく処理し、敷地しきちの中へと入る。


「私達が倒した以外の死体、初めて見たかも」

「交戦した跡だな」


 ゆうの言う通りで、駐車場には7体の案山子の死体が転がっていた。

 今後のラッシュに備えて、死体に矢をしっかりと打ち込んでいく。


「さてと、どうやって上に上がるんだっけ?」

「エレベーターで。動いてなかったら、外階段だな」

「それ最悪なんですけど」


 東京タワーの直下には、フットタウンと呼ばれる5階建ての商業施設があり、1階正面の入口を潜ってすぐ目の前にタワーの中腹に位置するメインデッキへの直通エレベーターがある。


「あれ、ここは入口がいてる」


 フットタウン入口の自動扉に携帯をかざす前に、扉が自動で開いた。


「誰かが先に開錠かいじょうしてるって事?」

「そういう感じでもなかった。もしかしたら、デパートや球場とか商業施設に区分されるところは、ロックされてないのかも知れない」

「逆に、鍵をかけて立てもれないって事か。考えてみれば、広い所に立て籠もれたらそれだけで有利だしな」


 無駄にポイントを消費しなくて済んだのは良いが、これは少し誤算だ。

 恐らく上の展望台も同じ仕様になっているだろう。いざという時に安置化あんちかして時間をかせぐ事は出来ない。

 それを裏付けるように、室内にも案山子の死体があり、各所に争った形跡けいせきが見て取れた。


「気を付けて。バケモノがひそんでるかも」

「建物の中なのに、安心できないの?」


 そうは言っても、エレベーターは目の前だ。

 皆で周囲を警戒しながら直進し、上階へのボタンを押す。

 電気も生きているらしく、ランプが点灯した。


「動いてはいるけど、降りてこないね」


 展望台に行く三台のエレベーターはいずれも、上階で停止したままだ。


「バケモノが上がってこないように、止めてるのかも」

「ちょっと、そしたらやっぱり……?」

「外階段だな」

「ヤダ! 上と連絡取る方法探そう。そうしよ?」

「変に歩き回って、敵と鉢合はちあわせしなきゃいいけど」


 八木やぎの心配に答える様に、上階からゴンッ、という物音が響いた後、続けて何かを引きるような音が続く。


「ひっ!」

「寝てた奴が起きたのかも。いや、この場合は死んでた奴かな」


 音は上の階から一定の範囲で、今のところは降りてくる気配はない。


「決めつけが早いな、君達。万が一で、人の可能性はある」

「ないでしょ!」


 ゆうに否定された八木は、「折角フォローしたのに」と肩をすくめる。


鍬野君くわのくん、どうする。籠城するのが上だとしても、不安要素は取り除いたほうがよくないか?」

「そうですね。八木さん、一緒に来てもらえますか。坂神さかがみさん達はここで待機して――」

「こんなところに置いていくつもり?」

「長距離の移動で疲れてるでしょ。エントランスは周りが良く見えるから、坂神さん一人で対処できるよ。もしダメなら、上に逃げてきて」

「こんなところじゃ、休めないって」

「なら……一緒に来る?」


 ゆうりん美和子みわこしばらく顔を見合わせて、最後に渋々と首を縦に振った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る