第85話 希望の丘 ④

 タワーを目標に道なりに進み、最後の難所なんしょと思われる桜田通りを横断すればゴール目前。


「当然、いるよな」

「これ、他に東京タワーに近づける人いるの?」


 桜田通りは案の定、多くの敵が集まっていた。


赤玉あかだまが多い。案山子かかしをどんどん赤玉に変えていってるんだと思う」

「数が増えればいもづる式か。怖いな」

「流石にあの数が飛び込んで来ると思うと怖いかも」

「赤玉には腐食ふしょくってスキルがある。一体でも近くにいると調子が悪くなるから、同時に来られるとどんな状態になるのか分からない」


 ゆうしぶい表情で、「作戦は前回と同じ?」と問いかけてくる。

 恭平きょうへいは小さく首を横に振った。


「さっきは広範囲の敵を引き付けすぎた。それに、あんまり爆発に頼りたくない」

「俺は下手に撃たない方がいいか?」

「段取りを踏んでから。春日かすがさん、閃光弾を出して地面に置いて」

「ここで、いいんですか?」

「敵が複数飛び込んできたら、迷わず起動して。もし閃光弾を使う状況になったら、全員で後方へ退避」

「了解だ」

「うん。わかった」


 各々、頷く。


「運が悪く無ければ、多分心配は無いと思う。さっき御萩おはぎを倒したから、みんな『半殺し』のスキルを手に入れてる筈」

「緑の虫みたいなやつの事ね」


 優がいち早く携帯を操作して頷く。


「うん、『半殺し』が追加されてる。御萩を倒して、実績が半殺しなんて趣味悪いわよね」

「……どういう事?」


 美和子みわこの問いに、優は「みんな知らないの?」と逆に疑問を返した。


「関西の方では、御萩の事を半殺しっていうらしいから」

「どうして半殺しなの?」

「私も詳しくは知らないけど、御萩に使うお餅のもち米を粒が残るくらい半端に潰してるのが由来だったかな。全部潰して普通のおもちにすると、『全殺し』なんだって」

「よく知ってるね」

「入試対策で色々雑学調べたんだよね。変化球問題が多すぎるから。地方文化とか方言の設問が8割の確率で一問出題されるの、ウチの高校」


 偏差値の高い高校の入試になればなるほど、基礎知識の広さは勿論のこと思考の柔軟性を問われる作文系の設題が増える。

 流石、進学校に通うエリートだ。


「どうでもいい話してごめんね。さっさと倒して進みましょ」

「ううん。ちょっと和んだ」


 優は話を切り上げて、目の前の敵の波に向き直る。

 彼女の言う通り、ここは早く切り抜けた方がいい。赤玉は死んだ案山子は勿論、恐らく生きた案山子も赤玉に変えられるはずだ。

 全乗せによる爆破は例のごとく、ボス級が湧いて出た時の為に温存しておきたい。


「やろう」


 八木やぎの連射が戦端せんたんを開く。

 見えている範囲の赤玉、案山子が例外なく此方に狙いを定める。

 何度見ても背筋に緊張が走る光景だ。

 今回は、見えない場所に木偶でくが居たらしい。散発的に弾丸が鈍い音を響かせ、遅れて案山子がわらわらと現れる。

 これ以上敵が増える前に木偶の頭部を破壊したいところだが、赤玉を警戒して距離を取っている為、狙う事が出来ない。

 これは手痛いミスだ。

 しかし、致命的なミスではない。

 これで赤玉やボス級が大量に湧いてくるのであれば窮地きゅうちおちいっていただろうが、8割方が案山子なら対処可能だ。


「来る。構えて」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る