第81話 雲集霧散 ⑳

 最初の一匹をボウガンで殴り飛ばすと、それは風船が割れる様に一瞬で消し飛んだ。

 金槌かなづちの称号効果で、武器本体で打撃を与える事が可能となるだけでなく近距離補正きんきょりほせいで大ダメージを与えられる。

 当然、敵の攻撃による殺傷さっしょうリスクが跳ね上がる諸刃もろはつるぎだ。

 本来は意図せず接近された場合の保険として使うのが正しいが、恭平きょうへい命懸いのちがけの反復練習により超近距離での戦闘技術を習得している。

 もしもの時に使えなければ意味が無いと訓練を始めた所、意外と強力な事に気づいたのだ。

 マリモの足をけ、ボウガンで叩きのめす。

 その射線上に居る別のマリモに矢を飛ばす事も忘れない。

 近距離攻撃をしつつ、中・遠距離の敵も狩っていく。

 ボウガンに組み付いてきたマリモに矢を三連。痙攣けいれんするマリモを払い飛ばしながら地面を転がって素早くリロード。

 飛び掛かってきたマリモに素早く三連。


「うしろ!」


 美和子みわこが叫ぶのが聞こえた。だが大丈夫、分かっている。

 背中にせまる敵に手首を返して肩越しにノールックで三発。

 地面と水平に半月をえがくようにボウガンを前に引き戻す。

 その動きで、飛び込んで来たマリモが千切ちぎれ飛んだ。


「本当に人間?」

「すげぇ」


 時間にしてわずか14秒の近接攻防。

 それで全てのマリモもどきがはじけ飛んでいた。

 荒い息で立ち上がり、皆の方へ戻ろうとした瞬間。

 嫌な予感に体を大きく左へとらす。首のあった位置を、青白く長い腕が通過した。


「そうだよな。御萩おはぎが居るなら――」


 ボウガンにセットされた矢が光り輝く。


「お前もいるよな」


 青い腕をボウガンの一振りで千切り飛ばしてから、大通りの方を振り返る。


『ギリリリリリリリリリ』


 果たして、こいつも高速道路から降りて来たのだろう。40メートル射程ギリギリに青い巨体をらす軍曹ぐんそうの姿があった。

 軍曹は腕を千切られたことで、次の腕の射出体勢に入ろうとしている。

 しかし遅い。恭平は既にスペシャルショットを三発打ち出している。

 軍曹の巨体が爆発に飲まれて爆ぜた。確実に即死。

 だがまだ安心はできない。


 ドドドドド、と地鳴りが起こる。

 今の爆破を受けて、更に広範囲の敵が恭平達に気づいて押し寄せてくる。


「おい、なんかやばくね?」

「静かに」


 音を聞き、ボウガンを構えたままWAVEの先頭が現れるタイミングを計る。

 出来る限り敵を引き付け、大通りの左右から飛び込んできた瞬間にまず一発。

 先頭の赤玉あかだま二体、案山子かかし四体が爆発で吹き飛び肉片をぶちまける。

 それから4秒後。高速上部の遮音板しゃおんばんがベコリと外向きにひしゃげ、化け物がたきのように流れ落ちて来る。その着地点を狙って、一発。更に4秒の間を置いて1発。

 爆発の炎と煙で効果は視認できなかったが、確実に数十体以上の化け物を爆殺した手応えがあった。


みんな、残りが来る。武器を構えて。春日かすがさんは浜辺はまべさんに閃光弾を。念の為」


 結局、閃光弾の出番はなかった。


 恭平の爆破により敵のラッシュは散発的になり、ゆう八木やぎだけで対処できる範疇はんちゅうだった。

 跳弾ちょうだんのおかげで、遥か後方の木偶でくが頭を爆発させて酸をまき散らし、周囲の化け物を巻き込んで自滅したのも大きかった。

 当然、跳弾の起動は制御できないので硬い体にヒットした分の敵は新たに湧いてきたが、それでもお釣りがくるほどの戦果せんかだ。


「全部、倒したんだよな?」

「うん。……やった」


 恭平は呟く。

 思い出すのは、戦線が崩壊したあの時の光景。

 今回はボスが二体も出現する、より厳しいラッシュだった。

 それを誰一人負傷することなく乗り切ったのだ。


「改めて、鍬野君くわのくんのは凄いスキルだな。……ん、もしかして泣いてるのか?」

「いや、別に」


 服の袖で涙をぬぐう。込み上げてくるものが多すぎた。

 何度も、もうダメかとあきらめかけ、何度も何度も死んだ。

 地獄のような状況の中で、自分がやっている事は無意味なんじゃないかと疑心暗鬼ぎしんあんきに陥っていた。

 目の前に立ち込めていた暗雲が完全に晴れ渡った気分だ。


「目を怪我したとか、じゃないよな」

「大丈夫」

「よかった。……でも、どうした?」


 恭平は照れ臭くなってうつむき、しかしこの気持ちは皆に伝えておくべきだと再び顔を上げた。


「みんなと戦って、乗り切れたのが嬉しいんだ」

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