第80話 雲集霧散 ⑲

 ソフトボール部かと錯覚さっかくする綺麗な横投げの投球。

 手から離れた爆弾はなんなく大通りに飛び出して、車道の真ん中まで転がった。

 数体の案山子かかしの視線が、爆弾を追いかける。


「爆破します!」


 りんが叫び、起爆ボタンを押す。

 実際に爆発はしないのだが、駆け戻ってくる美和子の背中で、音響弾が敵を引き寄せる大音量をひびかせる。


 そのわずか15秒後。


「中々えぐい絵面だな」


 銃を撃ちながら、八木やぎが顔を引きつらせる。

 凛の音響弾に群がり山となる案山子や赤玉の塊がそこにあった。

 初回なら間違いなく逃げ出していただろうが、今は八木が居る。

 連続で打ち出される弾丸が、何度も跳弾して敵のライフを一瞬で削り取っていく。

 30秒と掛からず、音響弾に群がる殆どの敵が死に絶えた。


「マジか。適当に撃ってるだけで全部死んだぞ!」

『ギリリリリリリリリリ』

「っ、御萩おはぎが来る。坂神さかがみさん構えて!」

「もう準備万端じゅんびばんたん。いつでも来いっての」


 ゆうの銃が光り輝く。スキルを起動したあかしだ。

 彼女の手は微かに震えていた。


「落ち着いて。坂神さんなら出来る」

「分かってる。集中するから静かにして!」


 本当なら、打ち漏らした場合と分裂に備えてアイスアローを起動しておきたい所が、他にボス級が出てきた場合に備えて温存しなければならない。

 いざという時にスキル全乗せを起動できなければ、ハンマーヘッドとの死闘が無駄になる。


 この局面、優を信じる。


 狙うには大きすぎる緑のかたまりが、懸念けねんした通り高速の防音板ぼうおんばんに無数の穴を穿うがちながら乗り越え、ガサガサと降りて来る。

 凜と美和子が、御萩の気持ち悪い見た目と大きさに息を飲むのが分かった。


「出来る限り、引き付けて。地面に降りてから」

「分かってる、ってば」


 優は流石さすがの集中力で、御萩おはぎが床に降り立つまさにその瞬間、目玉を狙って引き金を引いた。

 轟音ごうおんと共に発射された銀の弾丸。

 右手の銃から放たれた弾丸は御萩の真ん中の目を破壊し、背中まで届く大穴を穿うがつ。

 左手の銃は右目のわずかに上へ着弾。体の5分の1を削り飛ばす。


「残りのライフ、1,200!」


 美和子が叫ぶ。

 致命傷と思われたが、仕留めきれなかった。

 残った体が崩れて、無数のに増殖する。


八木やぎさん!」

「よし来た! 任せろ」


 リロードを終えた八木が先頭のマリモもどきに向かって銃を連射する。

 恭平きょうへいも極力先頭を狙ってボウガンを射出。

 しかし、四本の足を使って高速で動くので中々当たらない。


「陣形を維持しながら少しずつ後退こうたい

「うぇっ、分かった」

「了解。うぅ、きもっ」


 優も殲滅せんめつに加わり、少しずつ下がりながらマリモの山を潰していく。

 ここでもやはり、八木の跳弾が役に立った。

 ほぼすべての敵を自動で貫通する跳弾に、狙っていないマリモもどきが続々とその場で痙攣けいれんした後、潰れていく。

 数が瞬く間に10匹を切る。

 これなら――、


「前に出る」

「ぇ!?」


 皆の驚愕を背中に置き去りにして、恭平が一気にマリモ達の前へと走り出た。

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