第79話 雲集霧散 ⑱

「でも、お菓子ばっかりはちょっと」

「長時間戦うなら、カロリーの高いモノの方がいい。そもそも、食ってるひまがあるのか怪しいけどな」

「飲み物は多めに用意しておいた方がいいかもしれないね」

「そうなったらトイレは……ってうそでしょ。まさかオムツとか言わないでしょうね!?」


 ゆうの魂の絶叫に、美和子みわこりんも同調する。


「そんなに嫌か? 自分なら、トイレの最中に襲われて死ぬ方が嫌だけどなぁ。無理に我慢して戦ったら注意散漫ちゅういさんまんになって、やられた挙句あげくに我慢してたものが……」

「ストップ。八木やぎさん、セクハラです」


 美和子がギリギリで止めたが、凛は両手で耳を塞いで悲鳴を上げた。

 優もゴミを見る様な目だ。


「えぇっ!? あくまで可能性の――」

「この歳でオムツくぐらいなら死んでやる!」

「……分からないなぁ」

「女子には、命より大事なことがあるの! 沢山!」


 優の熱弁に、八木が遂に押し負ける。

 この贅沢な悩みと衝突も、余裕が出て来た証と言うべきだろうか。

 一旦トイレ問題は棚上げして目標への到達を優先しなければ。


「開けた場所に出る。あれは高速かな。視界が悪い。ラッシュに警戒を」

「了解。ってか、もう案山子かかしが何匹か見えてるな」

「マップ上に変な反応は今の所ないよ。これは多分、麻布通あざぶどおりだね」


 美和子がマップを睨んで声を張る。

 八木が戦えるようになったので、地図役を交代した形だ。


鍬野君くわのくん、作戦はある?」

「まず、春日かすがさんの音響弾おんきょうだんを大通りに投げ込んで敵を引き付ける。げるやく浜辺はまべさん、頼める?」

「私でいいの?」

「逆に、大通りに届く所まで前に出ないといけないから」

「武器を持ってない私が適任てきにんって事ね。了解」

「春日さんは大通りに爆弾が投げ込まれたら直ぐに起爆。その後は、念の為に閃光弾を出しておいて」

「分かりました」

「ある程度、音響弾に化け物共が集まったところで――」

「俺だな?」


 恭平きょうへいうなづく。今の彼なら十分に対処可能だろう。


「はい。八木やぎさんがありったけの弾丸を打ち込んでください。撃ち漏らして向かってきたり、通り以外から向かってくる敵は俺と坂神さかがみさんで対処します。ここまではいいですか?」

「任せとけ」


 全員に認識のズレがない事を確認してから、話を次のステップへと進める。


「次に、ボス級が釣れてしまった場合。吹き飛ばしても問題ないと判断した敵は、俺がスキル全乗ぜんのせで粉々に。御萩おはぎみたいな爆散すると厄介な敵は、坂神さんに合図するから『銀の弾丸』を」

「了解。狙いをつけるの、まだ自信ないけど」

「フォローはするから、ゆっくり狙って。焦らなくて大丈夫。敵、でかいし」


 当たりさえすれば、ダブルタップの効果で2倍だ。

 ボス級相手でもかなりのライフを削れるはずだ。


木偶でくが居た場合は、大通り以外の方向からも敵が来る。前だけに気を取られないように。高速の上から降ってくる可能性もある。……準備はいいかな?」


 皆が頷き、りんが音響弾を取り出して美和子みわこに手渡す。

 彼女は静かに、足音を殺して大通りに近づき、爆弾をかぶって投げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る