第77話 雲集霧散 ⑯

 全方位から向かってくる敵に対処するには、こちらも全方位ぜんほういを見渡せて侵入経路が限定される場所に陣取じんどる他にない。

 となれば、東京に候補は二つだけだが、スカイツリーは徒歩の移動距離を考えると現実的ではない。


「東京タワーなら、階段下から登ってくる敵を撃つだけでいいから戦闘経験や練度れんどはあんまり関係ない。来る方向がある程度しぼれれば、武器の瞬間火力が高い方が経験に勝る筈だ」

「背水の陣ってやつ?」

「まずはタワーのメインデッキに立てもって迎撃して、死守が厳しくなったらその上のトップデッキに移動する」

「防衛線を区切るって事ね。そんなに上手く行く?」

「24時間死守できないと判断したら、俺はデッキから身を投げる」

「自殺してやり直す気? ……納得はしたくないけど」


 タワーなら明確な作戦の失敗ラインを引きやすい上に、死ぬには都合の良い条件がそろっている。


「タワーには他の生存者も集まってるはずだし、八木やぎさんの話を鵜呑うのみにするなら武器も沢山ある」

「俺なんか言ったっけ?」

上瀬かみせリオンの事。検証動画で携帯を大量に買いあさってた、って何回か前に聞きました」

「んん、そうなのか? だけどさ、俺達は鍬野君くわのくんのおかげで結構レベルが上がってるけど、タワーに集まってる奴らはそうじゃないだろ。まだ一発も撃ってない俺が言うのもおかしいけどさ、戦力になるのか?」

「皆が即戦力になる。いや、即戦力にする」


 皆の頭に疑問符が浮かぶのが分かった。

 ここからが重要なポイントだ。


春日かすがさんのホーリーボム生成開始時、俺は外で待機する。馬鹿みたいな数の敵がWAVEで押し寄せて来たところで起死回生きしかいせいを発動して、タワーの周囲をくまなく絨毯爆破じゅうたんばくはする。第一陣はほぼ全て倒せるはず」


 ここまで話したところで、さとゆうが一番に「あっ!」と合点がてんする。


「作戦前にタワーに居る全員とチームを組んでれば、その爆撃で一気にレベルアップする。そういう事でしょ?」

「その通り。WAVEにはボス級も含まれてる筈だから、その実績も上乗せされる」

「なるほどな! 大量の敵が襲ってくるのを、逆手に取るって事か!」

「いけそう、だね」


 皆の表情にも希望の色が灯る。


「そうと決まれば、さっさと行こうぜ。東京タワー」



 ◆◆◆



「うわ。本当にどんどん死んでく。楽勝じゃないか?」

「調子乗り過ぎ。楽で助かるけど上手く行きすぎて怖い」

「警戒は怠らないようにしよう」


 パワーレベリングの影響は大きかった。

 今まで後方で傍観ぼうかんしていた八木と優が敵の殲滅せんめつに加わった事で飛躍的ひやくてきに行軍スピードは上がっている。

 案山子かかし数体なら一瞬で排除出来てしまうのだ。

 故に恭平きょうへいは死体に矢を打ち込む作業に専念出来ている。


「ずっと思ってたけど、それって何の意味があるんだ?」

「放置した死体は、赤玉あかだまが皮を引き剥がして、新しい赤玉を作る。それを防ぐ為にやってる」

「倒した敵が復活するのか」

「防ぐ為って言ったけど、これで阻止できるかは分からない。確認するのを忘れてた」


 丁度いい確認の機会に恵まれなかった事も原因の一つだ。

 なまじレベルや実績の補正で攻撃力が上がっている今、赤玉が妙な行動をする前に倒してしまう。


「銃で撃っても効果あると思うか?」

「分からない。原型留げんけいとどめないくらいならきっと。殺された人も、傷とか欠損の少ない人から案山子になってたし」

「その話は初耳だけど!?」


 皆の視線が一斉に恭平へと向く。一応に驚いた表情だ。


「今回は言ってなかったっけ?」

「重要な事は先に言ってよね!」


 想像してしまったのか、優が自分の肩をさすりながら恭平をにらんだ。

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