第76話 雲集霧散 ⑮

 次に、恭平きょうへいゆうを見た。


坂神さかがみさんは『ダブルタップ』」

「なにそれ?」

「日本語で二度撃ちの意味。パッシブスキルだから射撃が常に二発になる。当然、弾倉も二倍」

「……私のスキル微妙びみょうじゃない?」

「とんでもない。今のレベルとこのスキルがあれば、案山子を8発で倒せる。片手4発ずつでいいから、敵を倒す速度は俺達の中で最速だ」

「うっそ、ホントに?」


 信じられない、という表情で銃に目を向ける優。

 そして最後に、最も重要なスキルを取得したりんを見た。


春日かすがさんのスキルを説明する前に一つだけ。絶対にまだ、使わないで」

「う、うん。わかった」

「絶対だよ。春日さんのスキルは、『ホーリーボム』。使用した瞬間に、全ての敵が吹き飛ぶ」


 恭平きょうへい以外の全員が「はぁ!?」と固まる。

 八木やぎと優はほうけた顔、凛は状況を呑み込めていない顔、そして美和子みわこは険しい顔で。


「全てって、化け物全部?」

「きっと、日本……もしかしたら世界中の化け物が全部」

「なにそれ、超最強って事?」

「おいおい、チートかよ。この糞みたいな状況を一発でひっくり返せるって事か! それなら勿体もったいぶってないで早く――」

「そう簡単じゃないんだ」


 恭平は冷静な声を心掛けて続きを話す。


「スキルらんには書かれてないけど、ホーリーボムの制作には24時間かかる」

「はあっ!?」

「当然、制作中は他の爆弾が作れない。春日さんはホーリーボムの制作をキャンセルしない限り、今作り置きしてる爆弾だけで丸一日戦わないといけない」

「それキツイって次元じゃないな。……けどさ、最強の鍬野君くわのくんがここに居て、自分もれて攻撃解禁だろ。案外いけるんじゃないか?」

「もう一つ問題がある」

「なんだよ、もったいぶらずに先に言ってくれよ」

「ボムの制作開始と同時に、敵を引き付けるアラームが箱から鳴り始める。そうしたら、日本中の化け物が一斉に押し寄せて来る」


 37回前の事だ。

 喜びいさんでホーリーボムの製作に入った途端、今までのラッシュとは比較にならないWAVEが始まり、チームは五分と持たずに壊滅した。

 恭平きょうへいが出来たのは、皆が死ぬより先に自分が死ぬことだけ。


 それも首の皮一枚、危機一髪ギリギリで。

 

 死に戻った瞬間、恭平は絶望……とは違う感情を抱いていた。

 この訳の分からない状況において現れた一筋の光明こうみょう

 確信する。この出鱈目でたらめなラッシュをしのぎ、ホーリーボムを起動する事でこの最低なゲームがクリアとなる事を。


「いやいやいやいや、それ無理な奴だろ絶対!」

「普通は無理だと思う」


 ハンマーヘッドが倒される事を想定していないボスだったように、凛のスキルも高すぎる解放レベルと明らかに説明不足な文面から、そもそも取得されることを想定していないスキルに違いない。

 全ての敵を即座に爆破するという規格外の性能でありながら、24時間耐久のWAVE攻略が必要という理不尽な極まりない条件デメリットが混在した極端なバランス。

 チーム全員がレベル50を超えて挑んだとしても、三十分と耐えられない。


「けど、今の俺には起死回生きしかいせいが残ってる」


 前回はハンマーヘッド討伐に起死回生を使ってしまったのです術がなかったが、今回は血のにじむ努力の末に温存出来ている。


「いくら起死回生があるって言っても、24時間なんてしのげないんじゃない?」


 美和子みわこが鋭い指摘を口にする。

 恭平は誤魔化さず、素直に頷いて見せた。


「作戦があるって顔してる。例えばだけど、安置の時間を延長出来たりするとか?」

「試したけど無理だった」


 数回前に確認済みだ。

 安置にもクールダウンがあるようで、同じ場所に留まる事は出来なかった。

 島を渡るように、安置から次の安置へ逃げるしかないが、ラッシュの状態で立て籠もれば四方を敵に囲まれるので実際は移動不可能。

 必然的に一か所での籠城戦ろうじょうせんとなる。


「なら、案を聞かせて貰える?」

「まずは敵を迎え撃てる場所に移動する。四方しほうが広く見渡みわたせて、出入口が少ない場所に」

「それが、俺たちの目指してるって事だろ?」


 これがクリアに必要な第一歩。恭平は直近のループから、目的地を国会議事堂ではなく東京タワーへと変えていた。


今までは考えなしに美和子の影を追ってきたが、それも終わりだ。

これからは、自分で考えて動く。



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