第71話 雲集霧散 ⑩

 面倒なのは御萩おはぎ軍曹ぐんそうだ。

 こいつらは流石に爆破無しで倒すのは難しい。


 ただ、通常攻撃のみのしばりをもうけて戦ってみてわかった事がある。

 軍曹の腕の攻撃は直線的なので、ある程度距離が離れていれば避けられるという事だ。

 加えて、あの気持ち悪い腕の一本一本に部位破壊の判定があるのが分かった。

 一定のダメージ、恭平きょうへいの場合は3発で腕が千切ちぎれる。

 腕が破壊できると言っても、百以上ある腕の内の一本に過ぎない。

 腕を全て切り落として無効化、という戦法は現実的ではない。先に軍曹のライフがゼロになるだろう。

 そもそも回避するか腕を破壊ないし攻撃した場合、より多くの腕をはなって反撃してくる。

 直接本体を狙った方が効率的だ。

 そんな軍曹の特徴として一番大きな発見は、腕を伸ばしている間は攻撃地点からほぼ動かない事。

 腕のリーチはおよそ40メートル。

 その限界ギリギリをつかず攻撃を交わして立ち回れば、比較的安全な遠距離戦を仕掛しかけられる。

 ただこれも、敵が軍曹単体だった場合の話。

 そこに案山子かかしなどの雑魚がからんでくると、軍曹は手当たり次第に雑魚を引き寄せて肉壁の軍隊ぐんたいを形成し、状況に応じて突進や案山子の投擲とうてきを仕掛けてくる。

 当然、攻撃が肉壁に吸われるのでダメージも通り辛い。

 投擲の条件は恐らく、肉壁のライフが0、完全な死体となった場合だ。

 周囲に死体が転がっている場合も、それを掴んで即座に投げてくることがある。

 手の攻撃と違って、死体は変則的へんそくてきな軌道で飛んでくるので注意が必要だ。


「怖いのは御萩おはぎだな」


 奴の弱点を割り出す事には成功した。

 ズバリ、三つの巨大な目だ。

 一つの目につき、矢は七発。ただ、純粋な弱点かと言うとそうではない。

 三つ全ての目が潰されるか一定のダメージを受けると、御萩は拳大こぶしだいの無数のマリモモドキに分裂する。

 第二形態だいにけいたいと言うべきだろうか。

 マリモには真っ黒な単眼と四本の昆虫脚がついていて、高速で移動、足を突き刺して攻撃してくる。

 それが200個以上だ。分裂した後の方が始末に悪い。


 更に付け加えるなら……、


 恭平はカフェの大通り側の大ガラスに目を向ける。そこには枠からはみ出す大きさの緑色の芋虫に似た巨大な物体が張り付いて、無数の足でガラスをいていた。

 恭平は携帯の鑑定機能を呼び出し、窓の方へカメラを向ける。


『御萩/軍曹:集塊百足しゅうかいむかで  ライフ、17,425  特技、投擲、高速移動』


 軍曹と御萩が一緒に配置されていた理由はこれだ。

 分裂したありったけのマリモを掴んだ軍曹の図体ずうたいは数倍にふくれ、移動速度も全力の御萩以上。ただ追いかけて来るだけではなく、掴んだマリモを惜しげもなく投げてくる。

 当然、投げられたマリモは避けても意思を持って攻撃してくる。

 背中の傷は、それによってつけられたものだ。

 今の所、この状態に変化した場合の弱点は見つけられていない。

 唯一の対処方法は、この状態にさせない、という事だ。


「こんな意地悪な化け物の配置、考えた奴は相当根性が曲がってる」


 いよいよ目がかすんできた。携帯の時間を確認する。10時24分。

 合流には十分な時間だろう。

 恭平は携帯をボウガンに戻し、席に両足を乗せて椅子の背凭せもたれに体重を預けた。椅子の前足が持ち上がり、テーブルに乗せた足でバランスを取る。

 そして、両手でボウガンを握り、目の前の大ガラスに狙いを定めた。

 一発一発、ゆっくりと引き金を絞る。数をカウントしながらだ。

 安置のガラスがどれほどの強度があるのか、確かめておきたかった。


「15、16、17、18……意外と耐久力あるな」


 八木やぎ跳弾ちょうだんの一件で過度に意識してしまっていたが、普通に戦っている中の流れ弾で割れる事は、ほぼないと考えてよさそうだ。

 それ以降、恭平はガラスが割れるまで間髪かんぱつ入れずに引き金を絞り続けた。



 ― Continueコンティニュー

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