第51話 セカンドコンタクト ④

「予想だと、浜辺はまべさんは俺より先にこの世界を何度も繰り返してた」

「どうして私が?」

「分からない。でも何かのきっかけで『探究者たんきゅうしゃ』のスキルを手に入れたんだと思う。例えば、一番に敵を倒すとか」

「それが繰り返しを起こしてるスキルなの?」

「多分。その後、俺が殺したせいでスキルが移動した。そういう風に継承されるタイプの実績なんだと思う」


 屋上で死を目前にした彼女が口にした言葉。

 聞き取れなかったが、あの口元は『あとはおねがい』と言っていたのではないだろうか。

 そうすると、彼女も何処かで『探究者』を持つ生存者を殺したのだろうか。

 その疑問は口に出さず胸の内にとどめる。


「初めて会った時、浜辺さんは俺の事を『最強の芋砂いもすな』って言った。それに、間違って撃った矢も空中で叩き切った」

「私が? 剣道部だけど、流石にそんなこと」

「何度も繰り返して知っていたなら辻褄つじつまがあう。カウントダウンが終わって十分程度で、離れた路地に隠れている俺の居場所や攻撃方法が分かる訳ない。開始と同時に場所を調べるか、開始前に場所を知っていないと、他に見ず知らずの二人を引き連れて来るなんて無理だ」

「どうして私が見ず知らずの君を探す必要があるの?」


 直球で核心を突く質問だ。

 記憶を失う前の彼女は何をしたかったのか。


「他に頼れる生存者がいなかったんだと思う。ボス級の敵が湧く渋谷交差点の周囲は、推測すいそくだけど1時間以内にほとんどの生存者が殺される。何度も殺されたから分かる。浜辺さんが何度も繰り返していたのなら、生き延びる時間が長くなれば長くなる程、死に戻った時に生存者が減っていく」

「……そっか。残ってる生存者は、ってことね」


 恐らく、恭平きょうへいもその中の一人。

 最強の芋砂という呼び方から察するに、単独行動で上手く生き延びていたのだろう。

 そう考えると、ゆう健吾けんごが生存している可能性は高い。

 二人も個々で長時間生き残る術を持っている筈だ。


「難しいわね。生き延びれば生き延びるほど、巻き戻った時の状況が厳しくなる」

「記憶と各種ステータスは引き継がれる。でも、一人で出来る事は限られてる。出来れば、あの二人とも合流したい」

「場所が分かればね」


「面白い話をしてるな」


 入口に目をやると、乱れた銀髪に一発で伊達と分かる鼈甲柄べっこうがら眼鏡めがねをかけた長身の男性が立っていた。

 ガラス扉の外には複数の敵が群がっている。

 彼は息も絶え絶えに、頭を少し下げる。


「わるい。逃げるのに必死で、連れてきちゃったよ。君らの姿を見て、鍵が開いている所がここしかなくてさ」

「大丈夫ですよ。後20分は入ってこれないですから」

「どうしてわかるんだ?」

「どうしてか、と言われると、そういうルールになってるから、としか」

「ふぅん? 休めるなら、いいか」


 そう言って、彼は上着を脱いで座り込む。シャツはべっとりと汗でぬれていた。

 それなりの距離を全力で逃げてきたのだろう。

 そんな彼に、水のペットボトルを持っていく。


「店の商品だろ?」

「もう売る人はいないですよ」

「確かに……そうみたいだな」


 彼は周りを見回してから意外とすんなり水を受け取り、口に運ぶ。

 サイズの合わないスーツで遠目には分からなかったが、かなり引きまった体をしている。

 髪の色のせいか、真っ当な仕事をしているようには見えない。


「スポーツ、何かしてるんですか?」

「いやいや。大学はラグビーをしてたけどさ。最近はジョギングするぐらいで、こんなことならジムに行っとくべきだった」


 少し元気を取り戻したのか、彼は棚のチョコレート菓子を無造作に引き寄せて封を開け、口に頬張った。


「この状況じゃ商談どころじゃない。あぁもう、今週契約取れないと不味いのに。最悪だ」


そう言いながら、彼は腰のベルトに挟んでいた拳銃を無造作に取り出した。

恭平はぎょっとして、一歩下がる。


「ああ、悪い。驚かせて。刑事ドラマだとここに入れてたから。変だよな、携帯がいきなり銃になって、頭がおかしく――」

「この人、……生存者だ」

「生存者? 見ての通り生きてるけど?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る