第50話 セカンドコンタクト ③

 恭平きょうへいの巻き戻りは、この狂った世界の法則にのっとっている。


 二人の明確な違いは、死んだか、死んでいないか。

 その生死の基準は何処かといえば、繰り返している恭平と仮定してみるのはどうだろう。

 恭平が死んで巻き戻る際、先に死んだ生存者は脱落扱だつらくあつかいとなり、武器を持たない一般人となるのだとしたら。

 開始早々に強力な敵がこぞって湧く渋谷交差点は、10分程度で殆どの生存者が殺されるはず。

 対して一回目を裏路地からスタートした恭平は6時間近く生き残った。

 その段階で、生存者はかなりしぼられていたのではないだろうか。


「とにかく、俺の他にも後二人、チームを組んで国会議事堂を目指してた」

「どうして国会議事堂?」

「それは……」


 最初から説明すると時間が掛かりそうだ。

 まだ恭平自身も頭の中の整理がついていない。


「ここは危険だから、少し安全な場所まで移動しよう」

「だから、最初から私達は逃げてたんですけど。あなたが引き留めたんでしょ」

「……うん、そうなんだけど。大通りは避けた方がいい。強い敵が最初から湧いてる」

「強い敵ねぇ……。少しなら付き合ってあげる。逃げるあてなんてないし」


 武器を携帯に戻し、逃げるべき方向を見極める。


「こっち!」


 人の波から外れる様に走りだす。

 美和子みわこりんは戸惑いの表情を浮かべながらも恭平の背中を追ってきた。


「そういえば、坂神優さかがみ ゆうって人は知ってる?」

「誰それ。芸能人?」

「いや、一緒に戦った仲間の一人」

「他にもいるの?」

「あと一人、五条健吾ごじょう けんご


 二人の反応は芳しくなかった。

 美和子が生存者から外れたことにより、大きく流れが変わったのは間違いない。

 彼女が率先そっせんして動かないのだから、あの路地でいくら待とうが皆が現れる訳がなかったのだ。


「五人の中で、浜辺さんが一番強かった」

「私が? ないわよ。あんなのどうやって倒すの?」

「刀。スキルで強化して敵を一刀両断して――」

「スキル? なにそれ、ゲーム?」


 なるほど、そこから説明しなければならないのか。

 最初は美和子が一から十まで説明してくれたというのに、今は立場が逆。

 何なら、優以上に疑ってくる。

 それがショックで、しばし無言で走り続ける。途中、何匹かの案山子を撃ち殺すと、二人が息をのむのが分かった。

 携帯を取り出して優、健吾の位置を調べてみる。しかし、引っかからない。

 探す場所が悪いのか、それとも。

 美和子があの二人を序盤から引っ張っていたなら、彼女の行動が変わった為に二人の行動も変化し死亡、一般人に落された可能性はある。

 二週目から今までで最も長い巻き戻りは、直前の30分強。

 30分……、この近辺でのスタートなら死亡の可能性は低くない。


「この建物に入ろう」


 選んだのは、戦いのセオリーに沿った二階から狙撃可能なマーケットだ。

 実際は二階でなくとも、30分後の出発時に敵を一掃出来る狙撃ポイントがあればそ事足りる。

 籠城戦をするつもりはない。食べ物と飲み物の確保が出来れば十分だ。


「言われた通りにした。どういう事か説明してよ」


 しきりに問いただしてくる美和子に向き直り、これまでの経緯けいいを洗いざらい話した。

 この馬鹿げた状況の事、恭平達がやろうとしたこと、そして美和子を殺してしまった事まで、全て。

 当然、彼女は嫌そうな顔をしたが、真実かどうか判断しかねている様子で、覚悟していたほどの拒絶は無かった。

 そうして俯瞰的ふかんてきに状況を順序じゅんじょだてて説明していると、新しく見えてきたことがある。

 それは、美和子の行動があまりにも合理的過ぎた事だ。

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