第49話 セカンドコンタクト ②

浜辺はまべ、さん?」

「どうして私の名前も知ってるの?」

「覚えてないのか?」

「剣道の試合で会った? 覚えてなくてごめんなさい。それじゃ」

「ここは危険だ。安全な所を知ってる。ついてきて」

「そんなの信じられると思う? 行こう、りんちゃん」

「待って!」


 走り出そうとする美和子みわこの腕を引きめようとするも、素早く振り払われてしまう。

 しかし、恭平きょうへいも「はいそうですか」と行かせる訳にはいかない。

 今までの反応を見るに、二人は共に恭平の事を覚えていないようだ。

 春日凛かすが りんはともかく、浜辺美和子はまべ みわこまで記憶が無いなんて。

 正直ショックは大きいが、絶望に沈んでいる暇はない。

 強引に前に回り込むと、二人の困惑と嫌悪の色がより一層濃くなった。


「理由があるんだ。聞いてほしい。信じられないかもしれないけど、俺はこの状況を知ってて、戦って死んだらその度に開始前に巻き戻ってる。最初は、浜辺さん、春日さんとチームを組んで戦った」

「頭おかしいんじゃないの?」

「本当だ。証明する。……春日さんが持ってる黄色の箱は爆弾を生成できる。作れるのは三種類。普通の手榴弾しゅりゅうだんと、閃光弾せんこうだん音響弾おんきょうだんだ。箱の側面のランプで、今の爆弾のストックと製作状況が分かる。あってるよね?」


 早口の説明に、春日凜は「これ、そうなの?」と困惑しながら箱に視線を落とす。

 どうやらまだ、それが何なのかという事すら知らないようだ。


物騒ぶっそうな事、言わないで」

「本当だって。浜野さんだって、このゲームが始まった瞬間に携帯が刀になっただろ?」

「……はい? なってないけど」

「え?」


 思わず聞き返す。そんな筈がない。

 彼女は確かに、一騎当千いっきとうせんの活躍で刀を振るっていた。


「そんなはずないんだけどな。あっ、無意識に携帯に戻してるとか。ほら」


 恭平はボウガンを携帯に戻して見せる。

 二人はぎょっとして「手品てじな?」と顔を見合わせた。


「念じるだけでいい。戻すこともできる」


 凜に試してみるよう促すと、オレンジの箱が携帯に戻る。


「わわっ」

「ほら!」

「信じられない!? でもやっぱり、私のは刀になんてならないけど」


 美和子の言う通り、彼女の手にした携帯は変化がない。

 何かが違っているのだろうか。


「浜辺さん、カウントダウン前に例のアプリを消したりしてないよね?」

「消してない。アプリのカウントダウンを二人で見てたんだもん。そうだよね、凛ちゃん」


 肯定するように、凜が頷く。

 恭平はさらに混乱する。彼女達の話が本当ならば、武器が出現しない理由が無い。


「そうだ、アプリで開始前に武器が選べた筈だ。春日さんは四角いシルエットを選んだ、そうだよね?」

「……う、うん」

「私はそもそも選択なんて出てこなかったよ?」


 愕然がくぜんとする。それこそあり得ない。

 このアプリを持っている皆が等しく平等に武器を所持する権利を得ていたはずだ。

 最初から、選べないなんてアプリを消した人と変わらない。


 ……でも、待てよ。


 思い出す。渋谷交差点の地獄の中で、武器を持っている人は皆無だった事を。


 いやいや、コレは状況が全然違うだろ。


 恭平は首を振る。

 初回、彼女と出会った時には間違いなく武器を持っていた。

 誰かから奪った? いや違う。だ。

 彼女が最初に武器を携帯に戻した光景は鮮明に記憶に焼き付いている。

 

 なら、何が変わった?


 凛は武器を持っているが、美和子は武器を持っていない。

 二人の明暗めいあんを分けたのは何だ。

 頭をフル回転させ、恭平は一つの最悪な推測すいそく辿たどり着く。



「……死んだせいか。俺が殺したから?」

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