chapter 3
第48話 セカンドコンタクト ①
『6月17日 9時27分』
巻き戻ると同時に大通りの方へと走り出す。
予想した通り、30分巻き戻った際のスタート地点は最初に居た路地裏だった。
人にぶつかるのも構わずに、最短ルートで大通りに突入、人混みをかき分けて対岸まで横断する。
舌打ちを数回、ひじ打ちを1度食らったが、ゲーム開始までに渡りきれた。
死ぬより数十倍マシだ。
「まだ4分もある」
やっと次に進めた。ただ数十メートルの道を横断するのに何度死んだだろうか。
……過ぎた事を考えるのは止そう。
出来るだけ近くに寄ればいい。後は開始後に検索し直せばいい。
顔は……大丈夫、覚えている。
携帯のカウントダウンを見ながら走る。
『3、2、1……』
幸運なことに、今回は開始と同時に化け物と
ようやく運が向いてきたという事か。
見える範囲に出現した
案山子の姿を見た数人が悲鳴を上げる。
案山子を全て自分に引き付けつつ、奴らが走り出すより早く連射を開始。
狙うのは近い個体からの各個撃破だ。
何発で倒れる?
三体が向かってくるが心は冷静だった。
今まで
結果、案山子は合計7発目で倒れた。
一発目で『半殺し』が発動してライフを半分の150まで削っているので、1本辺りの威力は20を超えている事になる。
10回近いリロードを必要としていた最初期から、ワンセット強で倒せるまでにレベルが上がっている。
何度も死に続けたのは決して無駄ではなかった。
そして、照準の技術も格段に向上している。止まっている状態ならば、腕を固定しなくとも狙いは外さない。
スキル補正だとか、そういう事ではなく、繰り返し撃ち続けた経験が実力として定着した結果だ。
撃ち込んだ矢が最後の案山子を倒すのを確認もせず、ボウガンを携帯に戻して検索機能を起動する。
春日凛の位置は、恭平の居る場所から200メートル弱離れている。
ここから二つ隣の通りだ。
そのまま馬鹿正直に追いかけるのではなく、彼女が逃げるだろう方角を見据えて走り出す。
「人が多いな」
大通りから少し外れた程度では人の量はそれほど減らない。加えて、化け物が
初期で配置される敵の種類や量は、その道路の大きさに依存するのかもしれない。
見える範囲で案山子以外なら
ボス級と思しき敵は見えない。
悲鳴が徐々に大きくなる。走りながら狙える敵には矢を撃ち込んでいく。
倒せる、倒せないはあまり関係ない。
大事なのは、敵の目標を自分に向ける事。
寄ってきてくれた方が倒しやすい上に、一般人が殺されれば殺されるほどパニックが大きくなり行動が制限される。
逃げ惑う人々の方が対処に困る。出来る限り、状況を呑み込めず棒立ちになっていてくれた方が助かるのだ。
「きゃああああああ!」
恭平が一撃を入れて向かってくる案山子が、恭平との間を塞ぐ位置に居た三十代のサラリーマンを
恐怖と悲鳴が
周りの敵を後回しに、血飛沫を浴びている案山子を即座に倒す。
全てを倒している暇はないので、赤玉だけ処理して走るスピードを上げる。
既に大通りから離れる様に逃げる人の流れが出来つつある。一瞬だけ武器を携帯に戻して、凜の位置を確認。彼女は予想した通りのルートを進んでいる。
まずまずの滑り出しだ。いち早く邂逅ポイントに到着。追ってくる敵に矢をお見舞いしようとするが、恭平を追うように逃げてきた人々のせいで狙いが上手くつけられない。
化け物の廻りは流石に人が割れている。もう少し接近を待たないと。
少し引っ張りすぎただろうか。対処しながら目当ての相手を探すのは容易ではない。
最悪、対処が遅れても『起死回生』があるが、前回は安置のカフェで30分経過しても起死回生が再度発動しなかったので、クールタイムは非常に長い事は間違いない。出来る限り温存したい所だ。
ボウガンを素早く携帯へ。もう視界に入ってもいい距離だが、春日凛は背が低い。人混みに紛れていては見つからない。
再び携帯をボウガンに戻し、追ってきた案山子にトドメを刺す。
案山子の断末魔と人々の悲鳴。それを無視して、凛の居る方角を睨む。
「居たッ!」
その姿を見つけた瞬間、走り出す。安堵から口元が緩む。アプリの示す通り、彼女はいた。
不安げな表情で、ただ周囲の人達が逃げる波に乗って走っている。
「
走り寄りながら、大声で呼びかけると彼女は驚いた様子で足を止め、そして
何となく予想は出来ていたが、向こうは恭平を覚えていない、……否、知らないのだろう。
「俺は、その……えっと」
しまった。彼女と合流する事ばかり考えていて、合流した際に何と説明するのかを全く考えていなかった。
恭平が言葉に詰まっている時間に比例して、彼女の表情が次第に曇っていく。
彼女の胸元に組んだ手には、オレンジ色の箱が握られていた。
間違いない。爆弾生成の為の箱だ。
恭平がそれについて切り出そうとしたのと、二人の間を
いや、突然と言うのは正しくない。
彼女は最初から凛と一緒に逃げていた。
恭平は凛にばかり気が向いていたので、視界に入っていなかっただけだ。
「何なんですか、あなた!」
「俺は
彼女の顔を見た瞬間、思考が完全に停止する。
恭平を
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