第45話 起死回生 ⑦

 あれ、今自分……何してるんだっけ?

 そうだ、目の前の案山子かかしを倒して、御萩おはぎ軍曹ぐんそうを……。


 順番が狂っている事に気づかないままに全スキルを使用。

 目の前の案山子かかしに打ち込んだ瞬間に失敗に気づく。


「あっ……」


 このまま爆発で死ぬ。

 そう思い目をつぶる。

 だが、いつまでたっても熱風と爆発が起こらない。

 ゆっくりと目を開けると、意外な光景が広がっていた。

 案山子に突き刺さった矢は確かに爆発の兆候ちょうこうを示しているが、爆発に至る前の光のつぼみの状態で止まっている。


 何故だろう。


 間違いなく、案山子は致死量のダメージを受けている。

 故に起死回生きしかいせいが途切れるはずなのに、まだ効果が続いている。


「……死亡判定しぼうはんていが上書きされた?」


 考えられる可能性はそれだ。

 案山子の即死級の攻撃で発動する起死回生。

 通常は原因となる案山子が死ねば解除される。

 しかし、恭平は偶然にも爆発による即死圏を近々に作り出した。

 案山子を原因とする窮地からは脱しても、スキルによる即死判定が後追いで発生した形だ。

 だから起死回生が続いている……はず。


「もし仮定が正しいなら」


 振りかぶられた爪を腕で弾き飛ばす。

 これで案山子による死の可能性は完全にゼロになった。

 やはり起死回生は解除されない。


「逃げられる!」


 爆発の即死範囲なら、起死回生を維持したまま移動が可能だ。

 体をよじり、人混みから体を持ち上げる。

 少し高い目線から現在の地獄を見回す。

 新しい景色。場所は変わっていないのに、状況を打開できるかもしれない喜びに体が震える。

 起死回生の継続範囲は、爆発の即死範囲にまで引き伸ばされている。

 これを応用して、即死範囲からギリギリで次の矢を炸裂させていけば、この場所から脱出できる。

 しかし、懸案事項があった。爆発の分だけ人を巻き込むことになる事だ。

 継続条件は矢を放って爆発の状態に持っていくこと。

 必然的に矢を射出する際にはボウガンの射線上、1メートル以内に着弾する対象がなければならない。

 つまり人混みの超近距離で爆発させる以外に方法はないのだ。


 他の方法を考える? いや、無理だ。


 これ以上、無駄に死に続けるのは耐えられない。

 脱出それでいい。

 そして開始時に人混みから抜け出すだけの時間を稼ぐ。

 その後に死ねば、今爆発に巻き込まれる人も次回には爆発で死ぬことはない。

 この場合は化け物達に殺されることになるが、少なくとも恭平きょうへいが殺したことにはならない。

 そう自分を屁理屈で納得させて移動を開始する。

 ただ、移動も一筋縄ではいかない。

 いくら人が密集しているとはいえ、その上を渡っていかなければならないのだ。

 安定感も悪く、下手なところには足を置けない。上手く肩に足を乗せようにも、


 グチャ……。


 あやまって接触した足のつま先が一人の男性の耳をけずり飛ばしてしまった。

 ほんの少しかすっただけだというのに、頬から後頭部にかけてがえぐれ、妙に白い骨が露出する。

 恭平は吐きそうになり、両手で口を押えて逆流しそうになったものをこらえた。

 起死回生中に触れたものは、化け物であろうが何であろうが、問答無用で大きなダメージを受ける。

 どれだけ気を付けてゆっくり動いたとしても、恭平が何十倍速の時間の中で行動している現状では結果はほぼ変わらない。

 消し飛ぶか、原形が残るかの違いしかない。

 後ろを振り返る。

 最初に人混みからい上がる為に手をついた四人は、よくよく見れば肩や腕が変な方向に曲がっていた。

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