第44話 起死回生 ⑥

 書かれている内容は恐ろしく規格外だった。

 何しろ、どんな強敵でも一発でライフを半分消し飛ばせる。

 そこからは地道にけずる事になるのだろうが、ライフ5桁の軍曹ぐんそう、やや下がるが御萩おはぎならば5,000近いダメージをたった一撃で与えられる。

 しかし、この状況では必ずしも状況打開に繋がるスキルとは言えない。

 スキルを全て使用した矢を、其々それぞれ3本ずつ直撃させれば二体を同時に倒すことは出来る筈だ。

 だが、倒せたとしても御萩から弾け飛んでくる無数の爪で死ぬ。この事実はくつがえらない。

 もし奇跡的にわせたとしても、周囲にあふれる無数の雑魚が即座に飛びついてくるだろう。

 全てを倒すのは到底不可能だ。


 今のうちに、矢を仕込んで……いや駄目だ。数が多すぎる。


「詰んでる、な」


 後にあるのは絶望だけ。何か一発逆転の策はないのか。

 すがるような気持ちで携帯のデータ項目を攫っていく。

 何か、見落としたスキルは無いか。

 この窮地きゅうちだっする何か……。


 当然、無い。

 一通り目を通した後だ。新たな項目が突然降って湧くわけもない。

 だが、最初からあるものが変わっている部分は見落としていた。


「……レベル」


 実績ほど劇的な変化でないとしても、積み重ねれば大きな差になる要素。


「よんじゅう、はち?」


 22から更に倍以上の上昇。

 ボス級2体のソロ討伐により大量の経験値が加算された為だろう。

 先程ダメージを確認したが、今ならもっと大きなダメージを与えられる可能性は高い。単純に2倍を超えるダメージが出るはずだ。

 更に何度か御萩と軍曹を倒せば、パワーレベリングによる火力でスキルを使わずとも倒せるようになる可能性はある。

 しかし同時にそれは何度も何度も周りの人達を爆発に巻き込んで殺すという事だ。

 自分のレベルと引き換えに、沢山の人を、何度も、何度も。


「……それでも、やるしかないんだよ」


 はらえられない。

 やらなければ、自分は一生この地獄から抜け出せない。

 いや、倒し続けた所で抜け出せない可能性もある。

 その時は何千人も殺した事実だけが残る。


「考えるな」


 嫌な可能性は、頭から切り捨てる。

 スキルを全て発動し、軍曹ぐんそう御萩おはぎに三発ずつ引き金を引き、目の前の案山子かかしをボウガンで殴りつける。

 時間が動き出し、二カ所同時に爆発が起こる。

 無数の鎌のような足が降り注ぐ。

 当然、けるすべはない。



Continueコンティニュー



三発で十分、敵を倒せることは証明された。後は作業だ。

感情を殺してボウガンを構え、次に来る痛みを耐える。

何度死んでも、死んでも、繰り返して、ただ純粋にレベルを上げる為だけに引き金を引く。


――痛い。



- Continue ―



――痛い。



- Continue ―



――痛い、痛い、痛い、痛い。


9回が限界だった。

何度やっても、降り注ぐ足の雨を無意識に避けようとしてしまう。

その度に体の別の部位を串刺しにされて、巻き戻れば五体満足なのに全身ズタボロの気分だ。

現在のレベルは58。


「きつい。きつすぎる」


手が震える。いや、手だけではない。全身が震えている。

おかしい。まだ攻撃を受けていないのに。

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