第42話 起死回生 ④

「でも、これはこれで」


 一本単位のダメージは期待できなくなったものの、応用は出来る。

 何しろ、撃てば打つほど矢は空中に残り、起死回生が切れると同時に一斉に敵に降り注ぐ。

 今までは6発撃った後の反撃で殺されていたが、矢が重ならない限り、爪が到達するまでの間は無限に矢を置き続けられる。


「人混みが無ければなぁ」


 難点は狙える範囲が限られている事だ。

 敵が何も障害のない場所に突っ立っているなら全身くまなく串刺しに出来るのだが、生憎狙えるのは人混みから突き出た上部のみ。

 それでもやるしかない。

 冷静かつ正確に、同時に素早く矢を置いていく。

 まるでそらに田植えをしているようだ。

 軍曹ぐんそうのライフは10,000。

 矢1本のダメージが3なので、単純に334本命中すれば敵は絶命する。

 しかし起死回生を維持したまま狙える範囲で、そんな数の矢を配置するスペースはない。

 せいぜい、100本が限界だ。


「っと、忘れてた」


 一通り、敷き詰めた所で、思い出したようにスキルを全使用する。

 今度は前の矢と当たらないように手を思い切り後ろに伸ばして、位置を少しずつ変えながら6発。

 輝く矢が目の前を通過した辺りで止まるので、中々心臓に悪い作業だ。

 こうして全ての仕込みが完了。

 爪の到達が迫っている。

 限界だ。他の敵に仕込みをしている暇はない。


「楽しみだな」


 恭平はボウガンを案山子の腕から首にかけて降りぬく。

 障子紙しょうじがみを破く程度の軽い感触で案山子かかしの腕と首が千切ちぎれ飛び、起死回生の効果が切れる。

 瞬間、『ブオンッ』と無数のはちが一斉に羽ばたいたかのような風切り音と共に、止まっていた矢が高速で軍曹めがけて直進、100弱の第一波が直撃した後、間髪入れずにスキル全乗せのスペシャルアローが着弾。



 刹那せつな、想像もしていなかった凄まじい爆発が起こった。



 衝撃波をともなう爆音と肉の焦げる酷い悪臭。

 爆発を中心に、人が、バケモノが、違わずドミノ倒しのように倒れる。

 恭平も例外ではなかった。


 もし彼に柔軟な発想力と知識があれば、大爆発の理由に辿たどり着いたかもしれない。

 爆発の原因はこうだ。

 着弾と同時にアイスアローの効果で氷のはなの形成が始まる。

 しかし氷はショックアローの電流によって酸素と水素に電気分解でんきぶんかいされ続け、最後にファイアアローが点火てんか。大規模な水素爆発を巻き起こしたのだ。


 結果、軍曹の上半身は瞬時に爆散ばくさんし、残った下半身も轟々ごうごうと激しく燃え上がった。

 ライフ10,000のバケモノが即死。

 その代償として、爆発から半径15メートル以内の一般人も爆発に巻き込まれて死傷した。


 爆発で馬鹿になった恭平の耳に、『ポロロン』という怪音かいおんが二度鳴り響く。

 それが何を意味するのか確認する暇もなく、恭平は押し倒された状態のまま、たけくるった巨大な緑のバケモノの無数の足に突き刺され、挽肉ミンチへと変わった。


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