第41話 起死回生 ③

 無力感に、思考がにぶっていく。

 痛みに耐えて、必死に解決策を探していた事が馬鹿らしくなる。


「もう、いいや」


 スローで迫ってくる敵の爪。

 それを無視してボウガンを青い手のバケモノ、軍曹ぐんそうへと向ける。

 生き抜く事には興味きょうみが失せたが、自分を何度も殺したアイツには一矢報いっしむくいなければ気が済まない。


 ――そういえば、スキルって同時に使用できるのかな?


 疑問に思うと同時に、視界のすみの三つの光が同時に消えた。

 ボウガンにセットされた矢が黄金色おうごんいろかがやき出す。


「おお、なんかすごい気がする」


 でも、ダメージ変わらないんだよな。


 喜びは一瞬。後は、着弾したらどんなエフェクトが起こるのか。

 このまま全部を打ち尽くすと、目の前の爪で引き裂かれて確認が出来ない。


 五本を射出して、素早く最後の一本を案山子かかしに打ち込めばいいか。


 このスローの状況で攻撃するとダメージが飛躍的ひやくてきね上がるはず。

 案山子なら倒せるだろう。


 ……いや待てよ。


 今の矢はスキル全乗せのスペシャル仕様だ。

 この至近距離で撃てばショックアローの衝撃と、ファイアアローの炎、アイスアロー着弾時の氷のとげに突き刺されておそらく自分も死ぬ。

 計画を修正。

 矢は六本全て軍曹に打ち込み、撃つと同時に案山子を殴って吹き飛ばそう。


「これだな」


 何故だろう。気負いがなくなった分、柔軟に考えられている気がする。

 この最悪なゲームの上で踊らされているのだとするなら、乗せられている事を前提に考える。

 幸い、ゲームは得意だ。

 マゾゲー、糞ゲーと呼ばれる難易度設定が変なゲームも沢山プレイしてきた。

 その観点からすれば――、


「死んでも、ステータス引き継げるのはマゾゲーじゃない」


 矢を素早く六連ろくれん

 しかし、その連射の四発目途中で視界が真っ白に染まった。



 - Continueコンティニュー



「すげぇ、恥ずかしい」


 再びスローになった世界の中で、恭平きょうへいは穴があったら入りたい気持ちで一杯だった。

 周りの人混みが無ければ恥ずかしさのあまり地面をのた打ち回っていただろう。

 今はただ、真っ赤になった顔を両手で押さえるのが精いっぱい。

 そもそも、誰も見ていないのでダメージはゼロに近いが、かっこつけて大見得おおみえを切った1秒後に自身のスキルで死亡したのだから救いが無い。

 死の理由はスキルの暴発。

 『起死回生きしかいせい』の状況下で矢を撃つとどうなるのか確認していなかった為だ。

 では、どうなるのか。


 恭平は軍曹ぐんそうに向かって、通常の矢を一発撃ちだす。

 勢いよく射出された矢は1メートルも進まないうちに速度を失い、空中で静止した。

 いや、実際にはゆっくりと動いてはいる。

 恭平の手から離れた事で起死回生の効果から外れたのだ。

 先ほどの死は、先頭で静止した矢と後発の矢が空中で玉突たまつき事故を起こし、体に四発分の電流が駆け抜けた事が原因である。


「近くの敵じゃないと、大ダメージは期待できないか」


 放たれた矢は確認した通り『起死回生』の効果から外れて本来の時間の流れに引っ張られる。

 つまり、1メートルを超えると普通の矢という事だ。

 大ダメージを期待するなら、ほぼゼロ距離での射出が必要になる。

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