第40話 起死回生 ②

 引き伸ばされる時間は現実の100倍くらい、だろうか。

 ピンチで発動と言っても生半可なまはんかなものではなく、死に直結ちょっけつするものに対してだろう。

 そしてこの現象は、命の危機の原因が無くなると解除される。


 危機を回避できるなら何故なぜ、恭平は二度も死んでいるのか。


 答えは簡単。スキルがクールタイムに入っている為だ。

 この現象は恭平きょうへいに秘められた特殊能力でも、奇跡きせき御業みわざでも何でもない。

 事実、敵の爪をわさない範囲で武器を携帯に戻して確認した所、新たなスキル『起死回生きしかいせい』が追加されているのが分かった。

 敵の攻撃を一定回数以上受けると習得するようだ。

 実績で解除されるタイプのスキルで、条件は200回ダメージを受ける事。

 異常な数値に、当然の疑問が浮かぶ。


 そんな回数のダメージを開始早々に受ける事があるか?


 答えは、ノーだ。

 真っ当に考えれば、全ての繰り返しを含めた累積回数るいせきかいすうという結論に辿たどり着く。

 だが、それでも計算が少し合わない。

 恭平が死んだ回数は多く見積もっても90回を越えない。

 ダメージという表記から接触せっしょくされた回数をカウントするとしても、毎回ほぼ即死そくししているので1しか増えない筈だ。


 ――あの気持ち悪い青い手のせいか?


 毎度、頭を正確ににぎつぶしてくる無数の手の一本一本に判定があるのなら、確かに一度死ぬたびに3、4回のカウントが増えていてもおかしくはない。


 しかし、今はどれだけ考えた所で憶測おくそくいきを出ない。

 携帯で現在の被弾回数を確認出来れば死ぬ前と後の回数を比較して検証する事が出来るのだが、残念ながら細かいリザルトは非開示情報になっている。

 とりあえず、答えの出ない疑問は一旦脇いったんわきに押しやり本筋へと戻る。

 先程スルーした大きな問題、巻き戻りについてだ。

 この現象に関して、恭平は今まであえて深く考えるのを避けてきたが、起死回生の実績取得じっせきしゅとくによってついに正面から向き合う時がやってきた。

 今まではただ漠然ばくぜんと、巻き戻りはゲームルール外のバグが要因で起こっているのではないかと思っていた。

 だが実際は、この巻き戻りの累積るいせきはゲームに影響を与えている。

 実績が解除されるという事は、『巻き戻り』の事象がこの馬鹿ばかげたサバイバルゲームにおける正常な挙動きょどうであるという事だ。

 行動、実績が巻き戻っても累積されると考えれば、開始時にレベル22になっている事も頷ける。

 最初の巻き戻りで追加されていた『探究者たんきゅうしゃ』というスキル。

 これが恐らく巻き戻りを引き起こすパッシブスキルなのだろう。

 ネタが割れたというのに、恭平の心の中には絶望ばかりが広がっていく。

 この時までは自分の頑張がんば次第しだいでこの理不尽なゲームから抜け出せるのではないかと期待していた。

 しかし結局、恭平はゲームによって作られた枠の中で足掻あがいているだけに過ぎなかったのだ。

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