第37話 Must Die ⑨

 ― Continueコンティニュー


「はいはい、全部狙ってくるよな、当然。了解」


 肩で息をしながら、吐き捨てる。

 この場での敵への攻撃は即死を意味する。

 一切いっさいの攻撃無しで、超難易度地帯ちょうなんいどちたいから逃げ出さなければならない訳だ。

 十数秒とは言え、生存時間が延びる行動は分かった。

 次に確認すべきは、既に3度も恭平きょうへいを殺している無数の手のバケモノの事だ。

 攻撃した瞬間死ぬのなら武器にしている必要はない。

 開始と同時にスマートフォンに戻して、読み取りアプリを起動。

 敵の攻撃を避けつつ、スマートフォンのカメラを向ける。


軍曹ぐんそうたばねる者 ライフ10,000 特技、拳法けんぽう集塊しゅうかい


 表記を見ただけで気を失いそうになる。

 他のバケモノとライフが一桁違ひとけたちがう。

 そして、特技のらんかかげられた雑な説明文。

 あの無数の手が繰り出してくる連撃は全て『拳法』らしい。

 到底納得とうていなっとくできないが、あの一つ一つが凶器という訳だ。

 そしてもう一つの特技、『集塊』。

 これは初めて奴と遭遇した時に見た。

 周りのバケモノを手あたり次第に引き寄せてまとめ、一つの巨大な肉塊として暴走列車のように追いかけてくる状態の事を指しているに違いない。

 全ての中心であり司令塔しれいとうである事を考えると、なるほど軍曹ぐんそうという名前はぴったりだ。

 完全にボス級。一人でかなう相手ではない。

 それを把握した段階でタイムリミット。

 飛び掛かってきた案山子かかしに食い殺される。



 ― Continue ―



 もう一度だ。

 軍曹の他にもう一匹、見て見ぬ振りできない三つ目の緑カビ饅頭まんじゅうが居る。


御萩おはぎ:分断する者 ライフ9,000 特技、暴食ぼうしょく、突進』


 軍曹にはおとるが、此奴こやつもなかなか頭のおかしいライフ量だ。


 御萩おはぎなんてふざけた名前しやがって。


 悪態の一つや二つも吐きたくなる。

 何しろ、戦っても勝ち目のない敵が二体も居るのだ。

 呼吸を整えて、御萩へボウガンを構える。

 やれば死ぬのは分かっている。だが、必要な事だ。

 視界の端の青い球体が弾け、矢が青白い光をまとう。

 今必要な情報は、ボスと思われる敵に対して恭平きょうへいの特殊スキルがくのか、どれだけダメージを与えられるのか、という事だ。


 ――当然、自分の死と引き換えに。


 素早く六連射と同時に武器を携帯に戻して御萩おはぎに向ける。


『ライフ8,982』


 上半身と下半身が千切れ飛ぶ感触を感じながら、その数値が鮮明に目に焼き付いていた。



 ― Continue ―



「アイスアローで1発につきダメージ3……」


 レベルが他のプレイヤーに比べれば高いというのに、笑えて来るほどダメージが通らない。

 それから、ショックアロー、ファイアアロー、通常の矢を3度の死と引き換えに試すも結果は同じだった。

 どうやら、スキルを使用しても基本の矢のダメージは変わらないらしい。

 バケモノによって矢のダメージが変わるのは、木偶でくと戦った際に経験している。

 これがレベルに影響する減衰げんすいなのか、単純にバケモノ毎に防御力が設定されているのかは分からない。


「倒せないのが分かっただけか」


 1人どころか10人でも倒せるか怪しい。

 それこそ、数十人の一斉掃射で一気にダメージを与えなければ。

 そこまで考えて、ふと気づく。

 恭平がこの場に来てから何度か死を繰り返したが、誰かが交戦している気配は全くない。

 訳の分からない状況で下手をすれば開始数秒で殺されるのだから、攻撃しろと言う方が無理とも言えるが――、1人ぐらい目の前のバケモノに驚いて攻撃しないか?

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