第38話 Must Die ⑩

『3、2、1……』


 再び死のゲームが始まる。

 ルーティンで敵の攻撃を避けつつ、今度は敵ではなく逃げ惑う人々の様子を探る。

 例えばりんの爆弾のように、一時的にでも場をかき回せる武器を持っている者さえいれば、協力して脱出出来るかもしれない。

 それなのに。


「どうして、武器を持ってる奴がいないんだ?」


 周囲にいる全員が、開始時に武器を手にしていない。


 アプリをアンインストールしたのに、お祭り騒ぎしたいだけで集まった奴らばっかりなのか?


 そんな筈はない。カウントダウンの際に携帯を注視ちゅうししている人は大勢いた。

 アプリを消していないのに、武器が与えられないプレイヤーが大勢居る事になる。

 必ずしも武器が配布はいふされるわけではないのだろうか。


 それでもおかしい。


 この場にいる人数から計算すると、武器が与えられる確率は極端に低い事になる。

 それではゲームが成立しないのではないか。


 ……考えても答えは出ないな。


 協力が不可能という事実だけ頭に刻む。

 無駄な長考ちょうこうをすればするほど死ぬ回数が増えるだけだ。

 死んだ回数は二桁にけたに届いている。

 短時間の内に連続で死に続けている影響か、巻き戻っても動悸どうきが収まらない。

 思考も徐々に鈍くなっている気がする。


「32秒が、限界」


 現在の開始地点から出来る限り生存を続けてかせぐことが出来た命の時間。

 逆を言えば、どうあがいてもそれ以上生き延びられない限界点。

 次の目標は、この32秒の間に移動できる範囲の中で安全かつ活路のあるスタート地点を見つける事だ。

 まずは敵の初期配置をしっかりと把握する。

 移動先で開始早々に死んでしまうと、永遠に抜け出せない死のショートループ地獄じごくおちいることになる。

 そして更に死ぬこと3回。目標とする地点をようやく見つける。


 目的地まではたった12メートル。

 目と鼻の先だが、開始前には絶望的な人混みが立ちふさがる。

 加えて、進路の中ほどには案山子かかしが初期リスポンする地点がある。

 移動に失敗すれば、開始と同時に襲われて死ぬ羽目になる。


 ……けど、やるしかない。


 更に3度の死を贅沢に使い、敵の配置と距離を頭にインプット。

 巻き戻ると同時に人混みへと体をじ込む。


「すみません! 通してください!」


 しかし、鮨詰すしづめ状態の人の波をなかなかこじ開けられない。

 たった5メートル進むのに20秒。

 残り12秒。


 まずい、まずい、まずいって!


 冷たいものが背中を伝う。

 このままでは、敵の直近で開始を迎える事になる。

 引き返す? いや、そんな時間はないし、退路も人で埋められている。

 人々が口を揃えて、絶望のカウントダウンを刻み出す。



『10、9、8、7……』



 あと8メートル。



『6、5、4,3……』



 あと5メートル



 無理だ。

 絶望が体を支配した瞬間、呼吸が苦しくなり、手足が痙攣けいれんする。



『2……』



 1秒先の未来を思い絶叫する。

 悲鳴はゲームスタートを告げる最後のカウントにかき消された。

 


 鮮血が爆ぜる。



- Continue ―



 何度も、何度も、何度も。



- Continue ―



- Continue ―



- Continue ―



 繰り返し。



- Continue ―



 繰り返し。




- Co Co Co Co Co Co Co Co Co Co………………







-実績が解除されました-



- Continue ―

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