第32話 Must Die ④

 ― Continue コンティニュー



「がっ、はっ……」


 足腰が立たず、へなへなと地面にへたり込む。

 全身を潰される嫌な感覚……一回目よりより悪い感触に胃の中のものが逆流しそうになるが何とかえた。

 それよりも今は状況の把握はあくが先だ。

 間違いなく死んだのに、今は路地に居る。

 場所は渋谷の路地裏。知った場所だ。

 前は家で目が覚めた。

 どうして前回と違うのだろう。

 震える手でスマートフォンを取出す。


『2022年6月17日 9時42分』


「何だよこれ。もうすぐ始まるって?」


 死んだと思ったら、もう20分足らずでゲームが始まるらしい。

 一体、何がどうなっているのか。

 死んだ事もそうだが、美和子達みわこたちが来なかった衝撃は大きかった。


 何かイレギュラーがあった? それとも、俺が一回目と違う事をした?


 思い当たるふしがない。

 二体の案山子が来て、倒すところまでは同じだった。

 違うのは、朝に父親と交わした言葉の内容とスタート時に居た場所ぐらいだ。


 ……ためしてみるか。


 それが正解かどうか考えている時間は無い。

 気合を入れて立ち上がり、1回目のスタート位置まで走って移動する。

 間もなくカウントダウンが始まり、


 確か、開始と同時に悲鳴があって、人が走って逃げるのを見てから路地へ入ったんだよな。


 悲鳴を聞いた後、記憶を出来る限り正確にトレースする。

 そして、路地裏に入ってから改めてボウガンを見る。

 スマートフォンには戻さない。

 一回目の自分は、彼女に教えられるまでそれを知らなかった。

 そこまでの再現に意味はないとわかっていても、今は『一回目通り』にすがるしかない。

 もう死ぬのは沢山だ。

 自分はこの最悪なゲームと死を繰り返しているようだと強く自覚し始めている。


「頼む頼む頼む、次こそ上手くいってくれよ」


 何を持って成功なのかはわからないが、とにかく彼女達と合流しないと先に進めそうもない。

 案山子を二体倒し、今度こそ彼女たちが現れるのを願う。

 しかし――、


「どうして来ないんだよ!」


 3分経っても現れない。

 たまらず武器をスマートフォンにかえて位置情報の検索を行う。


「検索にも範囲制限はんいせいげんあるのかよ。この辺りにはいない……どこだ?」


 路地に居てもさっきと同じ展開になるのは目に見えている。

 早急に行動を起こさないと。

 今回は完全に一回目と同じ行動を取った。

 しかし彼女達は現れない。

 ならば他のメンバーの誰か、もしくは全員が別の行動を取ったはずだ。


「可能性が高いのは浜辺はまべさんだな」


 司令塔となる彼女が恭平きょうへいの事を見つけた。

 彼女が違う行動をしていると考えるのが自然だろう。

 今考えると、彼女は最初から様子が変だった気がする。

 妙にこの状況に詳しく、そして冷静だった。

 まるで、何度も繰り返しているように。


『最強の芋砂いもすなでしょ。意地を見せなきゃ』


 引っかかっていた彼女の言葉が脳裏のうりよみがえる。

 まるでパズルのピースがはまるように。


 彼女が俺を見つけたのは偶然じゃなかった……?


 彼女が何度も繰り返して、強い仲間を探していたと仮定すればどうだ。

 しかし、前回は失敗した。恭平が彼女を死なせてしまったからだ。

 それで彼女が失望して誘いに来なかったのだとしたら辻褄つじつまは合う。


「俺はまだやれる。それと謝らないと」

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