第31話 Must Die ③

 考えるのはあとにまわす。

 すぐに2体目が来るはずだ。ボウガンを構え直して待つこと約1分。

 再び現れた案山子かかしにも間髪入れずに矢を叩き込む。

 そしてまた、到達前にバケモノは倒れた。


 知らないうちに弱点を突いてる?


 そんなことを考えながら、死体に矢を撃ち込んでいる自分に気づき、苦笑くしょうする。

 夢の中で散々繰り返していたとはいえ、もう癖になっている。


「もう少ししたら、浜辺はまべさん達が来る……んだよな」


 もう敵は現れない筈で、ただ合流を待っているのも時間が勿体ない。

 ボウガンを携帯に戻し、ステータス画面を開く。


「なんだ、これ」


 表示されたレベルの数値に目を疑う。

 レベル22。けたが一つ多い。

 加えて、スキルの項目だ。

 メインのスキル三種に加えて、妙なスキルが表示されている。


「『探究者たんきゅうしゃ』……?」


 常に効果を発揮はっきするパッシブスキルのようだが、クリックしても能力の詳細が表示されない。

 ただ、説明欄せつめいらんには一言『実績🔣🔣🔣🔣🔣』と文字化けした表記が記されていた。

 何の実績かも分からないスキルだが、後々になれば分かるのだろうか。

 それにしてもこの異常なレベル数値、ただの表示バグとは思えない。

 少ない矢の数で敵を倒せた事をまえると、レベル補正があったからだとすれば辻褄つじつまが合う。

 自分の知っている状況とわずかだが決定的に食い違っている。

 奥歯に物が挟まっているような不快感。


「とにかく、皆と合流して……」


 彼女の到着を今か今かと待ちびる。

 もしかすると、皆も同じ予知夢を見ている可能性がある。

 仮にそうなら、次は上手くいく筈だ。


「まだか……遅いな」


 そろそろ現れていい頃合いだと思うのだが、なかなか彼女達が姿を現さない。

 案山子を早く倒しすぎたせいに違いないと自分に言い聞かせる。

 妙な胸騒ぎが収まらない。

 望む状況が訪れないまま五分が過ぎた頃、通りに再び動きがあった。


「やっと来……」


 グギッ、ギュリュリュリュ。


 奇妙な音と共に現れたのは、浜辺美和子はまべ みわこではなく醜悪しゅうあくな青白い異形いぎょうだった。

 案山子の3倍を超える体躯たいく。その全身を覆い隠すように青白い腕が無数に生えている。

 それがゆらゆらと手招てまねききするようにれているので、遠目で見ればイソギンチャクに見えなくもない。

 姿を視認した瞬間に携帯をボウガンに戻して構える。


 しかし、相手の方が早かった。


 無数にある手の一本がまたたく間にびて、恭平きょうへいの首をつかんだ。


 アイツかっ!


 屋上で美和子の足を掴んだ奴だ。かなり力が強い。

 首が絞まって血流がにぶり、視界がかすむ。

 ボウガンを青白い腕に押し付けるようにして引き金をしぼる。



 バケモノが叫ぶと同時に首を絞めつける力が緩んだ。

 大量の酸素が喉を通り抜け、たまらずむせる。

 視界がチカチカと明滅めいめつする。倒れる事だけは堪えた。

 何しろ、より多い七本の腕が迫っていたからだ。

 素早くフラッシュアローを発動。

 掴みかかってきた腕に打ち込むと、衝撃と共に敵が硬直する。

 対照的たいしょうてきに恭平の体が後方に吹き飛んだ。


「クッソ!」


 近距離で起動すると自分自身もダメージを受けるようだ。

 幸い、自身の動きが止まる事はないようだが全身に痺れと痛みがある。

 気を付けないといけない。

 レベルが高い影響だろうか。スタン時間が若干長い気がする。

 すかさずファイアアローを起動し、腕ではなく路地の外にある本体を狙った。


 効果は絶大で、本体は瞬時に炎に包まれ、それを消そうとしているのか無数の腕が体をうように動き回る。

 やはりそうだ。炎の勢いも増している。

 伸びてきていた腕も引き戻され、ひとまず窮地きゅうちは脱した――かに見えた。


!』


 視界に入る全てを埋める無数のこぶしが、燃えたまま路地に突っ込んできた。

 反応は出来ても対応できない。

 大型トラックにノーブレーキで突っ込まれるのと同じ衝撃を全身に撃ち込まれ、恭平は血を吐きながら奥の壁に激突。

 更に追いすがる複数の拳が頭から足までを雑に一瞬で圧し潰した。

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