chapter 2

第29話 Must Die ①

 ―実績が解除されました―


「うわぁぁ!」


 叫び声をあげて恭平きょうへいは布団から飛び起きた。

 全身汗だくで、自分の震える足を見つめる。

 ひたいの汗をぬぐう腕も震えているのが分かる。


「夢……?」


 カーテンの隙間から見える空は薄暗うすぐらい。

 携帯を開くと、時間は5時52分を示している。

 いや、時間よりも日付が問題だった。


『2022年6月17日』


 つまり、『PRIMARYプライマリイ OFオブ THE DEADデッド』の開始日。

 夢と言うにはやけにリアルだった。

 体が引き千切られ、潰される感覚がまだ残っている気がする。

 夢ならばそれもまぼろしなのだが。

 携帯を操作し、『PRIMARY OF THE DEAD』のアプリを開くと、確かに約4時間後に向けてカウントダウンを減らし続けている。

 ねんじてみても、当然携帯は武器になりなどしない。


「ははっ、……楽しみすぎて頭がおかしくなったかな」


 携帯が武器になるなんてありえない事だ。

 そして、おぞましい異形いぎょうのバケモノ共。

 思い出せば出すほど、あれが妄想の産物に違いないと思えてくる。

 荒い息を整えながら、6時30分のアラームが鳴るのを待った。

 その頃には、気持ちは幾分いくぶんか落ち着いていた。


 洗面所で歯磨きを済ませ、冷蔵庫から小分けのヨーグルトを引っ張り出して口に流し込む。

 「恭平、行儀が悪い」と注意する父親の声。

 しかし、彼の目と耳はテレビのニュースに釘付けになっていた。


『一年前に突如として全世界のスマートフォンに強制インストールされた謎の“アプリ”が本日――』


「……夢と、同じだ」


 ヨーグルトの容器を取り落としそうになる。

 司会やコメンテーターの顔ぶれは勿論、その服装までも夢と一致している。

 嫌な汗が背中を流れる。


「結局、一年経っても、犯人の一人も見つからなかったな。……ん、恭平どうした?」


 顔面蒼白に近い恭平の顔を見て、父親が心配そうに顔を覗き込む。

 差異は違うが、彼の言葉も夢の中と似通っている。


「大丈夫……。うん」


 思考がまとまらない。


 まさか予知夢? そんなわけがない。

 あんな出鱈目でたらめな事、ある筈ない。


『このアプリ『PRIMARY OF THE DEAD』の意味についてですね、全世界で様々な考察がされていますが……、ゲストの向井学むかい まなぶさんに歴史学の観点から――』


 偶然にしては細部が一致しすぎている。

 一度頭の中に渦巻いた疑念を振り払う事が出来ない。


「本当に大丈夫か? 行くつもりだったんだろう、渋谷」

「うん、行くよ勿論」

「急がないと電車が混んで間に合わないんじゃないか? 水と……薬も持って行った方がいいな。向こうでコンビニなんて入れないぞ。混みすぎてて」

「ありがとう。そうする」


 会話を重ねるほど、嫌な予感が体にまとわりついてくる。

 それを振り払うように会話を切り上げて着替えを済ませ、家を飛び出した。

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