第28話 戦線崩壊 ③


「先行くぜ!」


 先陣を切って、健吾けんごとなりのビルへと飛び移る。

 それを皮切りに、続いてゆうが飛び、恭平きょうへいが続く。


「私、無理。……べない」

「大丈夫だよ、りんちゃん!」

「落ちかけたら、俺たちが引っ張るから! 下を見ずに思いっきり!」


 恭平は健吾と共に彼女の方へと手を伸ばす。

 手持無沙汰てもちぶさたな優はほぼ無駄と分かりつつ、両手の銃をバケモノ向かって撃ち始めた。

 必死の説得が効いたのか、はたまた背中の圧に負けたのか。

 凜が意を決して跳躍。

 少し足りない飛距離を恭平達が引っ張り込むことで補い、辛うじてビルの屋上に着地する。


「よしっ、よく頑張った!」

浜辺はまべさん、早く!」


 残るは美和子みわこただ一人。

 助走無じょそうなしの跳躍。流石は運動部と言うべきか対岸へ渡るのに十分な高さがあった。

 しかし――



 肉の壁の中から、青白く長い手が素早く飛び出し、空中にある彼女の左足をつかんだ。

 あっ、と思う暇なく彼女は体勢を崩しながら引き戻され、元の屋上床面に右肩から激突する。


「がっ……」


 頭を強く打ったのだろう。苦しそうなうめき声を一つ、起き上がらない。


 恭平は考えるよりも先にビルのすそっていた。

 体が浮いた状態のまま、彼女を更に肉壁方向へ引きる腕めがけてボウガンを射出。

 しかし、そんな体勢では当然当たらない。着地しながらリロード。


「くそっ、当たれ! 当たれ!」


 焦りが全身を支配する。

 もう肉壁まで距離が無い。

 不気味な腕のギリギリを狙わなければならないのに、なぎ倒される機械に阻まれる。

 彼女もようやく意識を取り戻したのか、鈍い動きながら刀を振り上げる。

 しかし、足を掴む腕に届かない。

 そして、何かをあきらめた様子で刀を抱くように逆手に返して持ち、胸に刃の先端を突き立てようとする。


「おい……待て! 待てって! あきらめるな! 止まれ、止まれよ、糞!!」


 そのがむしゃらに念じた気持ちに、まさに今クールタイムを終えたばかりの青い光が答えた。


 否、反応してしまった。


 意思とは別に発動したアイスアロー。

 その内の二本がバケモノの腕より手前の機器スクラップに着弾し――、


 次に起こった光景に恭平の顔面が蒼白になった。


 想定外の位置に着弾したアイスアローが、特性通とくせいどおりの刺々しい氷花を咲かせる。

 その鋭利なとげの1本が、守るべき美和子の首に深々と突き刺さった。

 突き刺さったまま引きられた彼女ののどが裂けて鮮血が噴き出す。

 驚いた表情の彼女と目が合う。

 彼女は少し困ったような表情をして、同時に何かを諦めたような悲しげな表情で、


「●●●●●●」


 声にならない言葉を発して間もなく、肉の壁に飲まれた。


「……あぁ」


 恭平は動けない。


 俺が殺した。そんなつもりじゃ……でも。


「おい! 早く戻って来い!」


 健吾達が叫んでいる。だが、耳に届かない。

 全身が震え、ボウガンを取り落とす。


 ……逃げないと。


 武器を拾い上げて健吾達の方へ走り出そうとしたところで、恭平は肉壁に飲まれてつぶされた。



 GAME OVER……      ……………………………………………?



〈chapter 1 end〉

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