第27話 戦線崩壊 ②

「もう二つ下の階まで来てる!」


 皆が階段を駆け上り始める中、健吾けんごが下を覗き込みながら銃を構える。

 恭平きょうへいはそれを見て足を止め、美和子みわこもほぼ同時に立ち止まる。


「先に行け。俺がスキルで足止めする」

「けどっ」

「オーバーヒートとトリガーハッピー、使うなら今しかないだろ。片っ端から打ち殺してやる」

「俺も残る。撃ち切った後に援護が必要だろ? ショックアローで3秒は稼げる。皆は先に屋上へ」

「私も残る!」


 美和子が叫び、健吾の元へと駆け下りる。

 接近の彼女は役に立たないのは分かり切っているが、言い争っている暇はない。

 もう敵は一つ下のフロアに到達し、あと数秒で先頭が階段中腹かいだんちゅうふくを折り返して射程圏内しゃていけんないに入るタイミングだ。

 殿しんがりを務めるのは恭平、美和子、健吾の三名。

 りんゆうは先に屋上に向かう。

 本来なら凜の爆弾を使いたい場面だが、先程使用した為にストックが無いのだ。


「……失敗したらごめん」


 健吾は、ぼそりと呟いてからライフルをフルオートで撃ち始めた。

 スキル使用の影響か、銃の先端と弾丸が灼熱しゃくねつの色に染まっている。

 その銃弾の雨が、階段を上ってくる案山子かかしれ、いや群れと言うには密集し過ぎて肉壁に近い物体に次々と着弾する。


「「「˝˝˝!!」」」


 鼓膜こまくはじけそうなほどのバケモノの絶叫ぜっきょう

 着弾した強化弾は敵を次々と貫通し、一網打尽いちもうだじんにしていく。

 先頭が倒れると、それを乗り越えて後続が津波のように押し寄せる。

 それを更に撃ちとどめれば、後続が死体を押し出して更なる高さで押し寄せてくる。


「多すぎて止まらない!」

「スキルが切れるまで撃ち続けて!」


 れの進行は目に見えてにぶったが、結果に対して眼前の圧倒的物量あっとうてきぶつりょうに皆がひるんだ。

 怯まないはずがない。

 そして、先頭がほぼほぼ死体と化したゆえに、弾丸の雨が死体に吸われて後ろにダメージが通りにくくなっていた。

 もはや先頭が死んで詰まっていようが関係ない。

 木箱きばこから押し出される心太ところてんよろしく、先頭の死体ごと上階に上ってくる。


「行きましょう!」

「まだスキルは――」

「限界だよ!」


 視界一杯に広がる肉壁は10段下まで迫っていた。

 彼女の一声をきっかけに、三人はすぐさま上階へと一段飛ばしで駆け上がる。

 つるの一声が無ければ、引きぎわを見失って肉壁に飲まれていただろう。

 背中に感じる圧に押されるように、息を切らしながら上階へ。

 屋上の扉を開いて待ち構えている優と凛のわきを駆け抜けて外に出ると、優がぴしゃりと扉を閉じた。

 数秒遅れて、鈍く重い音が屋上の扉を揺らした。揺らすだけにとどまらず、扉はあつに押されてに変形していく。


「悪い夢なら冷めてよ。ホント」


 追い込まれた屋上は、想像していたではなく、室外機しつがいきやタンクが密集みっしゅうして視界がふさがれている。

 大きな機械と機械の間の空間に体を横にすべり込ませ、ふとい配管をいくつかまたいで、くぐって、隣のビルのきわまで到達する。


「何とか飛べるか?」


 隣の建物との距離は1メートル強。

 とはいえ、眼下がんかには12フロア分の絶壁が広がっており、加えて隣の屋上の方がわずかに高かった。

 飛び移るにしても、心的拒絶感しんてききょぜつかんは相当なものだ。

 長々と躊躇ちゅうちょしている暇はない。

 背後でけたたましく扉が破られる音が響く。

 肉の津波となったバケモノ共が、屋上の機器を根こそぎドミノ倒しにしながら5人の方へと迫ってきていた。


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