第15話 共同戦線 ⑩

「この辺りは全部、開錠可能、っぽい。アイテムみたいな表示もないね」


 ゆうは両手の携帯を器用に使い、素早く地図を調べ上げて答えた。

 どういう頭の構造をしていれば左右で別の作業が出来るのだろうと感心する。


「ヒントとか、ないのかなぁ。裏コマンド的な」

「それあるかも。カウントダウンの時からやたらってる訳だし。でも試してる暇なくない?」


 カウントダウン時には、たくさんの隠しコマンドが散りばめられていた。

 事前の武器選択画面に飛ぶギミックもそうだったが、特定の時間に特定の場所をクリックするだとか、特定の番号を打ち込むなど、人海戦術を駆使しなければ見つけられないようなギミックばかりで、おそらく全てが解明される前に今日にいたっている。

 一年という猶予ゆうよがあってこれだ。

 いつ襲われるか分からない状況で、ヒント無しのパズルを攻略するのはほぼ不可能と考えていい。


「一番楽なのはレベルが上がると自動でイベントが解放されるタイプだけど」

「これだけ悪趣味で凝りまくってるのに、それは無いんじゃないかな」


 決めつけるのは早い、と恭平きょうへいは返す。


「これをゲームと仮定すると、ジャンルは何だと思う?」


「それは勿論、ホラーでしょ?」とゆうが即答する。


「それもあるけど、クラフト系の要素もあると思う」


 皆の表情に「クラフト系?」と疑問が浮かぶ。


「クラフト系っていうのは、ざっくりいうと自分たちで木を切ったりして木材や石を採取して、それを基に家を建てたり、街を開発したりするゲームジャンルの一つ」


「少し前に流行はやった、『大アニ』みたいなやつ?」


 大アニとは『大集合、アニマルフレンドパーク』の略だ。

 様々な動物モチーフのキャラクターと会話をして友達になり、協力しながら家を建てたり、昆虫採集をしたり、釣りをしたりとスローライフを楽しめるゲームである。

 オンラインで遊べば、友達を自分の作ったフレンドパークに招待して物品を交換したり、協力プレイも盛り上がった。


「『大アニ』もその1つ。クラフト系は色々と派生があって、例えば武器を作って装備を整えたり、研究を発展させてより強い武器を作って、隣国に戦争を仕掛けて領土を増やしていくものもある。その過程で兵士のレベルが上がったり、兵士のレベルが、例えば5上がると新しい装備が作れたり施設が強化出来たり。そっち系の中でも、ゾンビだらけの街で生存を競うタイプのゲームルールがあったりする」

「でも、どうしてゾンビ?」


 ゾンビものにうとい人は当然の反応だ。

 恭平は『OFオブ THE DEADデッド』という文面がを表している事が多いと注釈ちゅうしゃくする。


「ゾンビはクリア目標を作りやすいからだと思う。決められたタイミングでゾンビの大群がプレイヤー、またはプレイヤーの作った要塞ようさいに攻めてくる。ゲームではそれをWAVEウェーブと呼んでいて、決められた回数のWAVEを生き残るとゲームクリアになる。当然、WAVEは後になるにつれてどんどん激しくなる」

「それなら私達は戦ってるだけでクリアできるってことね。ちなみに、どのくらい生き残ればいいの?」

「自分の知ってるゲームの最短で7日」

「最短でも7日!?」


 皆の驚愕きょうがくと失望の表情は痛いほど分かる。

 ゲームなら時間は倍速、もしくはそれ以上の早さで経過する。

 それがリアルタイム準拠となると、途方もなく長い。長すぎる。

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