第14話 共同戦線 ⑨

益々ますます、ゲームみたいだ。集団幻覚でも見てるのか、俺達」

「ただの幻覚だったらいいんだけど」


 夢ならどれだけ楽だったことか。


「携帯のアプリでみんな催眠さいみんにかけられてるって可能性は? 武器を持ってるのは、アプリを消してなかった人だけだよね?」

「アプリを消してなくても、武器持ってない奴もいたぞ。多分だけど」

「それは、催眠に深く掛かっていなかったとか。開始時に変な文字が出たり、色が変わったりしたよね。あのパターンが実は催眠のきもで――」

「カウントダウンのタイミングで画面を見てなかった奴らは上手くかからなかった?」


 本当にそうだろうかと、皆が首をひねる。

 そんな中、美和子みわこがおもむろに携帯を刀に戻してタイルの床に一振りする。

 決して浅くない傷が床に刻まれ、彼女はかがみこんで傷を指の腹でなぞった。


「感触もあるし、幻覚には思えないけど」


 皆が彼女にならって触ってみる。確かに、床の傷の感触がある。

 これも幻覚と言うにはあまりにリアルだ。


「可能性が無いとは言い切れないんじゃない?」

「原因がアプリにあるなら、アンインストールすれば解除されるのかな?」


 りんの案を聞いて、皆が一斉にアプリを調べる。


「ダメ、アンインストールがない。本体からの削除要求さくじょようきゅうも受け付けない」

携帯壊けいたいこわしてみるか?」

「でも、私達の仮定かていが間違ってたら武器を失うだけだよ?」


 そうなれば戦力はガタ落ちだ。ためすにはリスクが高すぎる。


「ここは武器を二つ持ってる――」

「冗談でしょ。やるなら健吾けんごがやりなよ。大体、携帯アプリが原因なら、私は二つ共壊さなきゃ意味ないでしょうが」


 ゆうの正論に皆が頷き、沈黙する。

 考えた所で答えは出そうもなかった。

 必然的に、議題は一つ前に巻き戻る。


「そのあたりは、後々分かってくるかもしれないし、今は分かってる情報から整理しよう。何の話だったっけ?」

「レベルの話」

「そうそう。あれだけの数を倒して、このレベルだとすると、新スキルを覚えるのはまだ先になりそうだね」

「ちょっとまって」


 また、優が心底嫌そうな表情で皆を順番に見た。


「新スキルを覚えるぐらい、外には経験値になるバケモノがいっぱい居るってこと?」

「可能性は、高い」

「頭が痛くなりそう。早くこの悪夢から覚めてお風呂入りたい。コレが趣味悪いゲームだとして、何すればクリア? 百体倒すとか?」


 優の畳みかけるような疑問の応酬おうしゅう

 当然、誰も答える事が出来ない。

 この状況がどうすれば終わるのか、何一つ情報が提示されていないのだ。

 皆が一縷いちるの期待を込めて美和子の方を見るが、「分からない」と首を振るだけだった。


「普通のゲームなら、ラスボスを倒せばゲームクリアが一般的だけど、特定のミッションを達成するとクリアになるゲームもある。今は条件が表示されてないけど、時間経過とか、特定の地点に行くことで、クエストやボス戦が発生する可能性はあるかも」


 率先して口を開いたのは恭平きょうへいだ。

 ゲームの受け売りになるが、この手の知識には少し自信がある。


特定とくていのアイテムを取得した上で、指定の場所まで移動するとか? 例えば国会議事堂のカギを手に入れて、逃げ込めばクリア、みたいな」

「……なぁる。つまり、このゲーム内のお金で鍵が解除できない建物があったら、それがゴールかもしれない?」

「ゴールじゃなかったとしても、ゲーム上で重要な地点なのは間違いないだろうね」


 そう言ってみたものの、調べるのは容易ではない。

 あるかもわからないものをマップでかたぱしから探さなければならないのに、検索可能範囲は半径三キロ。

 移動しては調べて、を繰り返す必要がある。


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